ひるがえって考えてみてください。日本では「あいつはやる気がない」「会社のお荷物だ」なんて言われそうな「静かな退職者」(編集部注/会社を辞めるつもりはないものの、出世を目指してがむしゃらに働きはせず、最低限やるべき業務をやる社員)とて、欧州にいたら、標準以上の立派な働き者認定をされるのではないでしょうか。

 こんな話をすると、欧州の一般社会をあまり知らない人たちからは、こう反論されそうです。

「そんなひどい働き方では、生産性が上がるはずがないじゃない。OECD諸国の中では、欧州の労働生産性は高く、日本の方こそ劣るんだから、おかしいよ」

 こうした反論をする人が全く欧州に行ったことがないなら、まだわかります。ところが、バリバリのエリートで欧州滞在経験が豊富な人がそんなふうに言うから話がややこしくなります。

 実は、欧州のエリート(たとえばフランスなら「カードル」と呼ばれる人たち)は、おっしゃる通り、バリバリ働きます。また、高級ホテルやブランドショップ、ガイドブックに載るような有名レストランでは、日本以上に至れり尽くせりのサービスが供されます。そうした「きらびやかな世界」での生活しか知らないエリートは、一般大衆の世相がわからないのです。

 さて、件の“生産性”について、説明することにしましょう。

「手を抜くほど労働生産性が上がる」
その理屈を中学生でもわかるよう解説

 実は、仕事とは「手を抜けば抜くほど、生産性が上がる」ものなのです。たとえば、前述した友人のラジオDJがした、バルセロナからアンドラ公国に向かったバスが、途中で停まり、乗客を降ろした話を考えてみましょう。

 この運転手は定時通りに仕事を終え、全く残業をしていません。対して日本なら、サービス残業をしてまで、現地に乗客を送り届けていたでしょう。結果、労働時間当たりの売上(バス乗客の運賃総額)はフランスの方が上になります。

 さらにこの場合、降ろされた乗客は、新たなバスに乗るか、タクシーを捕まえるかしなければなりません。その結果、新たなバス・タクシー料金が発生します。それは、すなわち消費=生産が増えたことに他なりません。

 どうですか?

 この事例は極端すぎるので、他にも考えてみましょう。

 たとえば、欧米系の衣料品や家具の量販店では、「いつでも返品OK」と銘打っています。その分、けっこう不良品も多い。たとえば、1%の確率で不良品が発生したとしましょう。