欧州では、こうした「会社を超えて労働者が加入する組合」があり、そこからやって来た人たちがワーカーなのです。彼らは労働組合員であって、会社と単なる労働供給契約を結んでいる人でしかなく、会社のメンバーとは言い難い──欧州での労働者とはどういう存在なのか、これで理解できたでしょう。

 そこには、会社のために身を削って働くという考え方はあり得ず、会社側から見れば、「バックに強力な交渉者がついている厄介な人」なのです。だから、腫れ物に触るような扱いをした。章頭のドーア氏が示した「イギリスの工場」の日常風景を生み出す背景には、こうした歴史があるのです。

欧州のホワイトカラーは日本の係長
組織内のエリートにはなれない

 一方で会社が発展拡大すれば、社員(=資本家)たちは、自分たちの側につく経営管理要員が必要になってきます。こうした一団をエリート層として形成し、一般労働者と分離していきました。彼らは、事業を成功に導くために、専門の知識と技能を積み上げることを要求されます。

 だから、フランスならグランゼコール、ドイツでは商工会議所が発する高度職業資格や経営博士号などといった教育プログラムが作られていきます。こうした高度学歴を持った人たちが、会社に入って若い時からエリートの道を歩む、という仕組みが連綿と紡がれていくのです。完全な分断ですね。

 悲しいことに、日本の官僚や国際公務員などとして欧州赴任経験のある人たちは、こうした欧州のエリートばかりと親交を重ねているのです。だから、日本にはそちら側の話ばかりが広がります。ただ、人口レベルで言えば、圧倒的に「一般的な労働者」の方が多いことは間違いありません。

 ちなみに、欧州では普通の大卒者は、ホワイトカラー職務に就いた場合でも、日本で言う係長クラス(アシスタントマネジャー)で職を全うする人が多くなります。

 フランスではこういう層を「中間的職務者」と呼び、ドイツでは名称は特段ないのですが、一般労働者と同じ労働協約(タリフ)に沿って標準的労働をするので、「タリフ内」などと俗称されています。