彼らと会社の関係は、ホワイトカラー職であるにもかかわらず、やはり「会社の外からやって来た労働供給者」という扱いに留まるでしょう。だから、彼らもドーア氏が著した「イギリスの工場労働者」と大差ない働き方をしています。

 これで、ようやくわかったのではないですか?

 欧州の事務職従事者が、たとえば役所や銀行の窓口で、「はい、時間が来たから終わり」と、居並ぶお客を無視してさっさと窓口を閉じてしまう理由が──。

残業しない理由は
「お腹が空くから」

 では、欧州の一般労働者は一体どんな毎日を過ごしているのでしょうか。

 彼らには残業はないに等しく、17時になるとさっと仕事を終えます。

 私は取材で以下の質問をしたことがあります。

「夜遅くまでの残業は嫌だけど、明るいうちの18時くらいまで1時間長く働いて、残業代をもらい、一杯やりにいく生活も良くはないか?」

 彼らの反応はどんなものか、皆さん想像できますか?

書影『静かな退職という働き方』(PHP研究所)『静かな退職という働き方』(PHP研究所)
海老原嗣生 著

 多くの日本人は欧州に憧れを抱いています。だから多分、「家に帰ると趣味や教養の時間がある」とか、「地域活動や社会奉仕など別のコミュニティでの時間が始まる」などと、エレガントな想像をするのではないですか?現実は全く異なります。

「お腹が空くから家に帰る」

 と言うのです。「お腹が空いたら、パスタでもピザでも食べて仕事をすればいいじゃないか」と問い返すと、返答はこうです。

「あのね、朝飯でも10ユーロ(1600円)かかるんだよ。夕飯を外で食べるわけないじゃない。外食ディナーなんて、友人が遠くから来たとか、誕生日とかそんなハレの日しかしないよ」

 これが実情なのです。それでも残業が全くないから、夫婦ともにフルタイムワークを続けられ、そうすれば中間的職務なら、世帯年収は1000~1300万円になるでしょう。だから、贅沢などを慎めば生活は十分成り立ちます。それが、海の向こうの「静かな退職者」の姿と言えるでしょう。