■古里(長野)の工場

 昼食時間終了の5分前のサイレンが鳴った時には、次のサイレンで直ちに仕事を始められる態勢をとっておくこと。たとえば、ピンポンやその他のスポーツをやっていた者は汗をふき、将棋をやっていれば片づけるなどしておくこと。つまり、心と身体を次になすべき仕事に向けて整備を終えていなければならない。

 工場の従業員約8000人のうち、(始業10分前の午前7時50分以前に出社した者は7000人余り)、午前7時50分から55分の間に到着した者は917人、85人は7時55分のラジオ体操開始後に到着。7人だけが8時に仕事が始まった後で到着した。
※遅刻率は0.1%。

 これは、日・欧の比較研究の巨匠と目されるロナルド・P・ドーア氏の『イギリスの工場・日本の工場』(筑摩書房)から抜粋したものです。

 この本の日本での初版が1987年なので、書かれている内容は40年ほど前の風景となるでしょうが、日本の工場についていえば、ここに書かれていることと、現状とに大きな相違はないと読者の皆さんもわかるでしょう。私の見る限り、同様にイギリスのワーカー層の労働状況も、現代でもこれとあまり違いはありません。

 これほどまでに、日・欧の普通の人たちの働き方は異なるのです。トップエリートを除くと、まさに「静かな退職」が労働者の標準と言えるでしょう。

 日本人には信じられないことかもしれませんが、なぜ、このような働き方が標準になっているのかを、歴史や社会システムから少し説明することにします。