奥野 欧米人は比較的ふくよかですから脂肪層を通過して筋肉に到達するにはそのくらいの長さが必要なのかもしれませんが、日本人に対しては約半分の長さでもっと細いほうがいいのです。それを同じ針で打ったため、長い針が骨の近くにある滑液包というところまで届いてしまいました。

 滑液包は免疫反応が起きやすい箇所で、打った場所も上のほうだとよけいにSIRVAになりやすい。それで最初はワクチンを打つ場所がもっと上だったのが、途中から下のほうに下がっていったというわけです。

肩の痛みもむちうち症も
モヤモヤ血管が原因

遠藤 ワクチン以外だと、交通事故などが原因で痛みが慢性化するむちうち症も治療が難しい痛みです。

奥野 むちうち症もこれまでレントゲンなどで画像化できなかった痛みですよね。

遠藤 そうです。主な症状は首の痛みや動かしづらさ、しびれ、頭痛やめまい、耳鳴り、吐き気、顎関節の痛みなどさまざまです。2~3カ月くらいで徐々に回復すると言われていますが、数カ月、あるいは数年にわたって症状に苦しめられる方もいます。

奥野 むちうち症はどの年代でもなり得ますし、長い場合には20?30年痛みが続く人もいます。髪の襟足のところから気持ち悪い痛みや鈍痛があるのが特徴で、従来はそれもやはり画像化できませんでした。

 しかし近年、細かな炎症のところに集まってくるPET(ペット)という検査技術が開発されたのです。放射性薬剤を体内に投与し、その薬剤が多く取り込まれた部位を画像化するものです。PETはがん検診でよく使われるんですけど、別にがんだけではなく、ターゲットの物質を変えればいろいろなところに集まってくるものを見ることができます。それをむちうち症の患者さんに実施した海外の論文があり、モヤモヤ血管ができている場所に集まってきている画像が掲載されていました。

 その研究結果をきっかけに、僕もむちうち症の治療を始め、患者さんにとても喜ばれています。