赤ちゃんを抱えて、疲れた表情をするお母さん写真はイメージです Photo:PIXTA

母乳、離乳食、寝かしつけ……なかなか思い通りにいかないのが子育てというもの。赤ちゃん中心の生活に振り回される親には“臨機応変さ”が求められるが、発達障害のある親の場合、特定の状況では、臨機応変さが求められる場面で対応が難しいことがあるという(注:発達障害のある親でも、懸命かつ適切に養育をしている者がほとんどである。発達障害者が必ず不適切な養育をしてしまうということでは決してない)。※本稿は、橋本和明『子どもをうまく愛せない親たち 発達障害のある親の子育て支援の現場から』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

“臨機応変”にできない
親たちの事情

 子育てをしているところを外から見ていると、毎日毎日、親が決まった時間に食事を提供し、オムツを替え、寝かしつけるという繰り返しのように見えるかもしれない。

 しかし、実際に子育てをしてみると、機嫌のよいときはミルクもよく飲むし、眠りについても少々のことで目を覚まさないが、逆に機嫌の悪いときや体調がすぐれないときはミルクをあまり飲まないし、寝付いてもすぐに目を覚ましてぐずつく。

 養育をする親はなかなかこちらのペースで子育てをさせてもらえず、子どものその時々の状態に合わせてやっていかざるをえない。まさに、そこには“臨機応変さ”が求められるのである。

 しかし、発達障害で自閉スペクトラム症がある人の中には、得てしてこの臨機応変さの点でうまくいかないことが少なからずある。

 彼らの中には想像力が乏しく、先を見通すことがしにくい人がいる。それゆえ急なアクシデントやトラブル、あるいは予定の変更などがあるとたちまち混乱し大きな不安に直面する。そのため、日課を細かなところまで設定したり、いつも決まり切ったことをしたりしている方が情緒的な安定につながるのである。

 ところが、子育ては同じルーティーンの繰り返しではなく、アクシデントやトラブルの連続である。それぐらい、毎日いろんなことが起きる。そこに親の臨機応変さがあるからこそ、適切に、あるいはそれなりに対応できるのである。