そして、Nさんは発言したとおり、翌日からミルクを子どもに与え始め、その後は危機場面を回避することができたのである。
「臨機応変さ」がないと
子育てで重大なピンチに
ところで誰の言うことも聞かなかったのに、Nさんはなぜ女医の先生の言うことだけは聞いたのだろうか。それはこの女医の先生はNさんにとってはカリスマティックな存在であり、保育園の先生や家族やその他の人たちとは違う人物であったからである。
このことは、他者とかかわりが持ちにくい自閉スペクトラム症の人であっても、この人とはつながれるという人物がいるものである。
自閉スペクトラム症者にとってその人が尊敬できるところを持っていたり、通じやすさを持っていたりするところがあるとき、カリスマティックな対象となることがある。このNさんも女医の先生は特別な意識やまなざしを向けた存在であり、他の人がいくら言っても耳を傾けなかったが、女医の先生の一言で事態が動いたのであった。
先のNさんの事例のように、わが子のことを思い、大きく立派に成長してほしいという願いはどの親でも同じであろう。しかし、それがあまりにも一人歩きをし、そこに臨機応変さがないとなると、目の前のちょっとしたつまずきが大きなピンチとなってしまう。
Nさんの場合は、自閉スペクトラム症という特性がそれを際立たせたのかもしれないが、仮に障害がなくても、大なり小なり同じようなことが子育てには起こりうるものである。
育児においては「いい加減」
であることがとても重要
「いい加減」という言葉をどう感じられるだろうか。そこにはだらしない、中途半端、責任回避、といったイメージを重ね合わせる人もいるかもしれない。
しかし、この言葉をポジティブに受け止めると、臨機応変であったり、柔軟であったりという側面もある。