次に挙げる事例はこの「いい加減」が、育児にはとても求められることを知るものである。

 Oさんは生後9カ月の子どもを持つ26歳の母親である。Oさんは会社でも真面目でミスが少ないことで有名であり、家庭においても几帳面に掃除をしたり、食事も手を抜かずにインターネットや料理本のレシピをしっかり頭に入れて作ったりする。

 子どもがしだいに大きくなり、そろそろ離乳食に移行する時期となった頃の出来事である。実はあれだけテキパキといろいろなことがやれるOさんであったが、離乳食がうまく作れない。普段の食事はレシピを参考にして作れるのに、離乳食だけがうまく作れないのである。

 その理由は、通常の料理は形があり、色がある。しかし、離乳食の場合、目の前にいる子どもの状態によって、どこまで料理を柔らかく潰して子どもの口に運べばいいのか悩ましい。あまりに固形になっている部分が大きいと子どもはそれを喉に詰まらせたりして怖いとも感じる。

 要するに、Oさんは料理をどこまで細かく潰していいのかわからず、離乳食を作ってはみるがわが子に食べさせられずに捨て、再度作っては捨てと繰り返し、いつまでも子どもに食事が提供できないのであった。

臨機応変さや柔軟さが
求められる「子育て」

 確かに最初の離乳食のときの親の勇気は、並大抵のものではない。恐る恐る子どもの口に離乳食を運ぶが、子どもが食べにくくて、口に入れたものを吐き出したら、「もう少し料理を柔らかくしよう」「ちょっと大きかったから小さく潰してみよう」と試行錯誤をする。つまり、ここには親の臨機応変さや柔軟さが思いのほか求められる。

 しかし、Oさんのようにそれが備わっていないとしたら大変である。完璧主義で決まり切ったことはミスもなくできるOさんだとしても、離乳食の大きさ、硬さなどにはこれが正解というものはなく、そのときの子どもの状態次第でもある。