しかし、自閉スペクトラム症のある親の一部はその部分で大きくつまずいてしまい、特定の状況では、対応の難しさが養育の課題となることがある。

母親の“母乳主義”の弊害で
赤ちゃんの成長が危機的状況に

 23歳の会社員であるNさんは初めての出産を迎え、子どもができる喜びと同時に不安も大きく抱えていた。妊娠中からいろんな育児書を片っ端から読み、いいお母さんになろうと心に決めていた。

 無事出産をし、子どもも順調に育っていてそこまでは何ら問題は見られなかった。出産したあと、仕事に復帰するために子どもを保育園に入れた。

 そんなNさんは、出産前に2歳まで母乳で育てようということを決めていた。どこかの育児書にそれが載っており、Nさんは母乳を与えることが子どもにはよく、母子の関係にも大切なのだというところに共感し、自分もそれをやりたいと考えたのであった。

 当初はNさんの母乳もそれなりに出ていたので問題はなかったが、仕事に復帰し始めてからは母乳の出が悪くなった。保育園に子どもを送っていく際にはNさんは搾乳器でしぼり出した母乳の入った哺乳瓶を届けるが、子どもの月齢が大きくなるとそれだけでは足りない。

 保育園の先生も「お母さん、母乳に代えてミルクにしませんか?」と提案をするが、Nさんは断固としてその提案を受け入れず、「私はこの子が2歳になるまで母乳で育てます!」と1点張りであった。

 しばらくはそんな状態の中でやってはいたものの、子どもの体重が思いのほか増加せず、発達曲線の枠からも大きく逸脱するところまですでにきていた。

 離乳食を与える月齢には少し早いこともあり、母乳の足りないところをなんとかミルクでカバーをしてもらおうと、保育園側はNさんに「ミルクにしましょう」と提案するも、まったく受け付けない。

 そんな状態になっても、Nさんは母乳にこだわり、保育園の先生はもとよりNさんの夫や母親の忠告も聞き入れなかった。