「決断しないリーダーは有害ですらある」菅義偉が断言する理由、師から教わった政治家のあるべき姿とは国民のための政治をする。それが、私の信条であり、政治の師から受け継いだ教えでもある Photo:JIJI

コロナ対応や「黒い雨訴訟」など多くの難題に対し、首相としてさまざまな決断を下してきた。「全ては、国民のため」――。最終回となる今回は、政治とはどうあるべきなのか、改めて私の信条をお伝えしたいと思う。(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)

脱前例主義、縦割り打破…
難題にリーダーとして決断

 2021年10月1日、私は首相として最後の記者会見に臨んだ。会見は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が全面的に解除されたことを国民の皆さまにお知らせする機会ともなった。

 安倍政権の官房長官として、そして首相としても、20年1月から突如始まった政府を挙げてのコロナ対応に指揮を執り続けてきた私にとって、官邸での最後の会見がそのような機会となったことに運命的なものを覚えた。結果的にではあるが、以降、緊急事態宣言が行われることはなかったのである。

 これに先立つ21年9月3日の会見で、私はコロナ対応に最後まで全力で専念するため、来る総裁選への出馬を見送る決断をしたことを述べた。また、9月9日には事実上の退任会見を行った。その中で明かしたように、首相としての1年は、まさに国民の命と暮らしを守ることが最優先事項であり、官房長官として危機管理に当たってきた経験の全てを投入した。

 グローバル化した世界で直面した未曽有の感染症、つまり「未知の見えない敵」との闘いに打ち勝つことは、暗いトンネルの中を手探りで一歩一歩進むような困難な過程でもあった。医療逼迫への対応をしつつ、国民生活を守ることも同時に行わなければならなかった。

 穏やかな日常が戻り、いつもの国民生活が再開するその時まで、飲食店や観光業などに従事する人たちへの配慮と支援も必要だった。そしてそれは、国民の皆さまのご協力なくしてはなし得なかった。

 今、何が必要なのか。目の前の対応に追われながらも、現場の声や専門家の意見をつぶさに聞き、国民生活にとって最善の道を選択すべく、担当閣僚や官僚たちとも議論を尽くし、決断を重ねてきた。

 同時に、日々、感染者数やワクチン接種回数という目まぐるしく変わる事態に対応しながらも、長期的視野で取り組むべき国家の戦略的課題にも挑戦し続けた。50年までのカーボンニュートラル達成宣言、デジタル庁の発足、不妊治療の保険適用、高齢者の医療費改革などは、先を見据え、将来世代に引き継ぐべき国家像への道筋を付ける政策だったと自負している。

 また、常に念頭に置いてきた省庁間の縦割り打破、先送りしない決断する政治も実践した。省庁横断的に国家の基幹産業やインフラを守るための経済安全保障政策の推進や、ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出の決断などである。

 また、前例主義を脱したのが「黒い雨訴訟」の上告取りやめだった。「上告は不可避」「原発周辺住民への賠償にも影響」などと進言してきた厚生労働省の幹部とも議論を重ね、先送りを取りやめたのは、最も印象に残る「決断」となった。

 先送りされてきた課題に対し、自分の代で決断し、方向性を示すことは、政治家に限らず誰しも勇気が要る。先送りするなら「前例に従ったまで」と言い訳もできようが、決断する場合には相応の説明が必要であり、時にさまざまな批判を浴びることもあり得るからだ。