Photo:Yuichi Yamazaki/gettyimages
菅義偉氏が次期衆院選に出馬せず、政界を引退することを表明した。安倍政権の官房長官として約8年、自身も首相として約1年国家の運営に携わり、官邸の中枢での決断を担ってきた菅氏が考える「リーダーの資質」とは何か。昨年12月に発売した『菅義偉 官邸の決断』から、その一部を抜粋して公開する。菅氏は引退表明会見で、政治家として最も印象に残ることとして新型コロナウイルス対応を挙げ、「ワクチンの1日100万回接種」の実現を振り返った。当時、その決断の裏側には、どのような思いがあったのか。
新型コロナ対応で支えとなった
用意周到の「楽観主義」
安倍政権・菅政権を通じて直面してきたのは、大雨・洪水、地震などの災害、海外で邦人が殺害されるテロ事件の発生、そして何より、2020年の年明けからは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行という未曽有の事態に見舞われました。
私が「総理総裁にはならない、なれない」と言い続けながら、20年9月の自民党総裁選に立候補し、総理になったのも、この新型コロナの流行があったからでした。安倍晋三総理が、感染症対策と経済活動を両立させなければならないという極めて厳しい状況の中で体調を崩されて退任することになった。この状況下で、むしろ「私がやらなければならないのかもしれない」「逃げられない」という思いに変わったためです。
総理になってからより身に染みたのは、『リーダーを目指す人の心得』(コリン・パウエル著)にある「なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ」との一文でした。
これは、今日のうちにやれるだけのことをやっておきさえすれば、「翌朝には状況が改善されている、と信じられる」ということではないかと解釈しています。つまり、状況の改善が見えるだけの態勢を整えておくことで、後は大丈夫だと信じられるまで準備を怠るな、ということを意味しているのではないかと思うのです。
常に最悪の状態を想定し、その日のうちにできる指示や発表はしておく。あらゆる角度から課題を検討し、やれない理由ではなく、どうすればできるのかを考える。やるべきことをやった上での「楽観主義」ではないか、と。
コロナ対策の際には、この姿勢が大いに役立ちました。総理就任後、先にも述べたように「ワクチン接種1日100万回」という目標を掲げたのも、情報を集めた上で、「これならできる」と判断したからこそ、前向きな目標として打ち立てたものでした。
決して根拠のない数字ではなく、「うちの自治体では難しい」というところには国が全面的なバックアップを行い、「できる態勢」を整えるところまで踏み込み、細部から全体像までを把握した上で掲げたものだったからこそ、達成を楽観視できたのです。
接種の打ち手を医師のみから歯科医師や救急救命士、臨床検査技師にまで広げ、自衛隊の医師、看護師を動員して大規模接種センターを設置し、ワクチンの確保も見通しが立っていました。
これだけの準備をすれば、必ず目標は達成できるという確信が、私にはありました。結果、ワクチン担当だった河野太郎大臣以下、各現場の頑張りにより、「1日100万回」は、さまざま指摘されたマイナス材料に左右されることなく、当初のスケジュールを前倒しで達成することができたのです。大事なことは、リーダーの決断と、実現のための準備、そして最後は現場を信頼することだと改めて実感しました。












