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菅義偉氏が次期衆院選に出馬せず、政界を引退することを表明した。安倍政権の官房長官として約8年、自身も首相として約1年国家の運営に携わり、官邸の中枢での決断を担ってきた菅氏が考える「リーダーの資質」とは何か。昨年12月に発売した『菅義偉 官邸の決断』から、その一部を抜粋して公開する。菅氏は、政治の師と仰ぐ梶山静六氏から「お前なんか、すぐ官僚に丸め込まれる」と忠告されて以来、その教えをもとにある習慣を実践するようにした。その習慣とは。
官房長官時代の朝食会で
人々の声を聞く
リーダーとして政権を運営する上で最も重要なのは、最終的には「自分一人で決める」ことです。ただしそれは、孤立しているべきであるとか、誰とも深い関係を築かないということではありません。
私は官房長官時代にできるだけ毎朝、朝食会を開いて、政官財メディアはもちろん、あらゆる業界、あらゆる専門家・政策担当者の話を聞いてきました。
これは、政治の師である梶山静六先生にかつて教わったことから始めたことです。
「おまえなんか、すぐ官僚に丸め込まれる。官僚が政治家に説明するときには自分の思惑を必ず入れてくるから、それを見抜けなければならない」
そう言われた私は、自分の頭で考え、自分の意思を持ち、それに基づいて判断を下せる政治家でなければならないと感じたのです。そのためには、さまざまな立場の人から話を聞くことで、そこから見える情報、価値、風景を把握しておく必要があると考え、朝食会などで多くの方々のお話を伺うようになりました。
政治の世界に閉じこもっていては見えないものがある。人々の生活やビジネスの中にこそ、改革の種がある。「さまざまな分野の人に意見を聞き、自分なりの最善の判断を見つけ出す」ことが朝食会の最大の目的でした。そして、多くの人から話を聞いた上で、最後は自分一人で決断を下す。決断のために、多くの方の目や耳、経験を通じて得られた情報を共有していただいていたというわけです。
官房長官という役職は、総理が決断する上で必要なさまざまな情報や分析を伝えるのが仕事であり、リーダーが困難に直面するときにこそ、裏でしっかり支えなければならないと考えてもきました。あらゆる人の話を聞き、そこから見えてくる課題の本質を総理に伝えることが必要だったためです。また、こうして多くの人から現場の話を聞いたことは、総理になってからも大いに役立ちました。
最後に決断するのは総理です。自分が総理という立場を経験して以降は、これまで以上に「そのときに、最も望ましい決断を下せるか」こそが、リーダーにとって最も重要な資質だと考えるようになりました。
私は、「こういう方向で進める」といったん本筋が決まれば、その時々でブレることはありません。ただしその際には、現場の実際の状況を把握していることが重要です。政策や現状の細部までを把握した上で決断するのと、そうでない場合とでは、意味合いも結果も全く違ってきます。
これは私の愛読書であるコリン・パウエル著『リーダーを目指す人の心得』にも書かれていることです。パウエル氏は黒人で初めて米軍制服組のトップになり、国務長官にもなった、いわばたたき上げの人物です。その言葉に学ぶところは多く、本書に書かれている「13カ条のルール」のうちの一つに、「小さなことをチェックすべし」という一条があります。
私も何かを判断する際には、秘書官に細かい数字を逐一確認していました。間違った数字の下に判断してしまえば結果も思ったものにはなりませんし、決断を発表する際にも、前提とする数字が違っていれば説得力を欠くからです。












