できるわけがない…周囲が呆れたコロナワクチン「1日100万回」宣言を菅義偉はどう実現したか自衛隊が運営した大規模接種会場にはワクチン接種を求める大勢の人が集まった(撮影日:2021年5月24日) Photo:JIJI

一刻も早いコロナ禍の終息のため、私は「1日100万回」のワクチン接種を実現すると宣言した。無謀な目標だと周囲は思ったが、私には確かな目算があった。今回は、ワクチン接種のスピード実現の背景を振り返りたい。(肩書は当時)(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)

ワクチン接種「1日100万回」宣言
「無謀な目標」をスピード実現

 政策目標について、具体的な数値や達成期限まで挙げて国民の皆さまに提示するのは、政治家にとって勇気が要ることだ。達成できなければ、政権の実行力が疑問視され、結果責任を問われるリスクを背負うことにもなる。だが、それでもあえて具体的な目標を掲げる姿勢が必要なこともある。

 新型コロナウイルスの感染拡大に際して宣言した「ワクチン接種1日100万回」目標も、まさにそうした姿勢が必要な場面であった。政治の側が自らリスクを背負い、まさに「背水の陣」で臨む姿勢を鮮明にすることで、目標達成のために各省庁が縦割りの枠を超えて連携し、全力を挙げて取り組むことを促す狙いもあった。

 ワクチンは、コロナ禍において少しでも早く人々が日常を取り戻し、社会活動や経済活動を再開するための切り札であった。安倍政権期の2020年8月28日には「国民全員分のワクチン確保を目指し、関連費用を今年度予算の予備費から充てる」ことを決めた。

 それまでも、私は官房長官として各国・各企業のワクチン開発やその確保に注意を払ってきた。そして首相となった私に対する国民の第一の期待は、コロナ対策の継続であり、ワクチン接種を含む早期の終息であった。その期待に何としても応える必要があったのだ。

 そこで私は21年1月18日の施政方針演説で、「万全な接種体制を確保し、2月下旬までには接種を開始できるよう準備する」と述べた。この目標は3週間後の2月上旬にはさらに前倒しすることとなり、「2月中旬に接種をスタートしたい」旨を会見で述べた。

 宣言通り2月中旬から、感染者とじかに接することになる医療従事者、約400万人を対象とするワクチン接種を開始。4月以降は重症化リスクの高い高齢者、約3600万人への接種を開始した。

 さらに21年5月7日には、「ワクチン接種、1日当たり100万回を実現する」と明言した。この数字を出すに当たり、周囲からは反対の声もあった。「できるわけがない。なぜそのような達成困難な数字をぶち上げたのか」とあきれている党内の関係者や幹部官僚もいたと聞く。

 当時、ワクチン接種推進担当大臣だった河野太郎氏も、後に「正直なところ、総理は何を考えているのかと驚いた」との心境を明かしている。確かにインパクトのある数字ではあろう。だが、私には達成可能であるとの目算があったのである。