例えばあなたが実家住まいの大学生ならば、家族の規範、大学の規範、ゼミの規範、サークルの規範、などがあり、それぞれ身を置くところによって、あなたや周囲の人間の行動を制約する。
もっと引いて見れば、国家の文化的規範や、国際的な行動規範というものもある。このように、中には規範同士の包括的な関係もある中で、あなたの行動は基本的に一番小さく、身近で具体的な規範により強く影響される。
そして、最も強くあなたに影響するのは個人的規範であり、これは価値観と呼ばれたり、信念と呼ばれたり、美学と呼ばれたりする。
これらは互いに干渉し、時に矛盾することもある。サークルの仲間とはオールでカラオケに行くべきで、自分もそうしたいが、実家住まいだと親が許さない、などといったことは経験があるのではないか。社会人であれば、部署内の飲み会は頻繁にあるが、酒を飲んで遅く帰ると配偶者に小言を言われる、といった形を取るだろう。
似通った例になってしまったが、夜の時間というのがどちらのコミュニティにおいても可処分時間なので、複数の行動規範が衝突しやすいのだと思う。
なぜここまで規範の話をしたかというと、現代の日本で生活し、会社で働く、あるいは商取引をする以上、資本主義という規範からは逃れられないからである。
あなたは普段、自分が資本主義のルールに従って生きている、と意識しているだろうか。事業に関わる人であれば、そうであってほしい。もし意識していないとしたら、むしろ問題である(公務員やNPOに従事する方の仕事にはあてはまらない部分もあると思うので、「そういう世界もあるんだなあ」くらいに考えて読んでいただきたい)。
株式会社の目的とは何か
「誰のため」が利益を生むのか
さて、資本主義社会に生きるあなたは、株式会社の目的を説明できるだろうか。
1976年にノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンによれば、株式会社の目的は、利益の追求と株主価値の最大化、すなわち、投下資本あたりの利益を最大化することである。
この考え方は長らく主流であったが、昨今の経済格差や環境への影響を受け、企業活動には持続可能性や社会貢献が求められるようになっている。
具体的には、企業は自己の利潤のみならず、ブラックロックCEOのラリー・フィンク氏が言うところの「従業員、顧客、取引先、地域社会と相互に利益をもたらす関係」を築く必要があり、この考え方はフリードマンの「株主資本主義」に対して「ステークホルダー資本主義」と呼ばれている。
従業員(あるいは役員)たるあなたもまた、ステークホルダーの一員であるから、企業と相互に利益をもたらす関係を築くのは当然だと考えるかもしれない。