両親が自分抜きで勝手に合意したら認知を求めることも許されないのか。進路や人生について真剣に考え始めていた子どもは自ら法律相談に訪れ、2020年12月、理事長に対する認知調停を家庭裁判所に申し立てた。

 調停の中でおこなわれたDNA型鑑定の結果で、理事長が父である確率は99%超。生物学的なつながりは動かしがたい事実だった。家裁は2021年10月の審判で、事実上この一点を持って認知を認めた。

 ところが翌月、子どものもとに家裁から思いもよらない通知文が届く。「(理事長が)死亡していたことが判明しました。審判は失効します」。

両親が勝手に結んだ
合意は子を縛るのか?

 審判は出されてから14日間が経過しないと確定せず、その前に当事者が死亡すると無効になる。理事長は審判の12日後、81歳で亡くなっていた。

 民法は、認知を求める相手が死亡してからも3年間は「死後認知」を求める訴えを起こせると規定する。子どもはすぐに死後認知を求めて提訴した。

 訴訟は理事長が女性との間で結んだ合意が子ども自身の認知を求める権利に影響を及ぼすのかが争点になった。

 子ども側は訴訟で、母親の女性は誓約書が我が子をも拘束するという認識を持っていなかったと主張した。裁判には数年前に父親の不貞行為を知らされた長女らも利害関係人として参加していた。

 長女らは、女性は誓約書に署名することによって「親権者として子どもの認知請求権を放棄した」と反論した。

 厚生労働省の人口動態調査によると、2022年に生まれた婚外子(非嫡出子)は約1万7000人で、出生数全体の2.3%を占めた。1990年は1.07%、2002年は1.9%と、少子化が続く中で割合はじわりと増えている。

 家族観の多様化が背景にあると見られるが、相続を巡ってトラブルが起きる可能性もある。故人が残した財産が多くなるほど、いさかいは大きな摩擦を生む。

出生数に占める婚外子の割合の推移同書より転載 拡大画像表示