遺族年金には、18歳までの子を持つ配偶者らが受け取る「遺族基礎年金」と、会社員などの厚生年金加入者が死亡した際に受け取る「遺族厚生年金」がある。
子どもが既に成人し、会社員の夫に先立たれた今回のケースは遺族厚生年金の支給対象になると女性は考えた。
だが、2021年4月に届いた通知には「戸籍上の配偶者との婚姻関係が形骸化していたとは認められない」として、支給しないと記載されていた。
1年後の2022年4月、女性は不支給決定の取り消しを求めて国を提訴した。
厚生年金保険法は、亡くなった配偶者によって生計を維持していたと認められれば、婚姻届を提出していない内縁関係でも遺族年金を受け取れると規定する。
戸籍上の婚姻関係と内縁関係が同時に存在するケースは「重婚的内縁」と呼ばれ、原則として戸籍上の関係が優先されるが、事実上の離婚状態にあれば例外的に内縁関係でも配偶者とみなされる。
夫婦関係が形骸化していたか
どうかが争われる
例外を認めるかどうかは、戸籍上の夫婦関係が実体を失った状態で固定化しているかを、別居期間や訪問・連絡の頻度、経済的な依存関係などに基づいて総合的に判断する。訴訟では実質的な夫婦生活の評価が争われた。
戸籍上の妻に支給すべきとの立場だった国側は「定期的に電話で連絡するなど別居状態にありつつも家族としての一定の交流が図られていた」と主張した。それに対し、内縁の女性側は「(男性と戸籍上の妻とは)34年もの間、実際に会うことはなく直近7年間は電話連絡すらほとんどしていない」と強調した。
2024年2月の東京地裁判決は「44年間にわたり別居して生活し、関係修復に向けた努力をする意思も完全に失われた状況だった。低頻度かつ短時間の電話連絡はもはや婚姻関係の維持存続を図ろうとする趣旨とは言いがたい」と判断。
戸籍上の夫婦関係は「形骸化している」と認め、遺族年金を内縁の女性に支給しないとした国の決定を取り消した。
判決はそのまま確定した。
余命2年の夫から
突然の電話が
最初に遺族年金を支給しないことを決めた国と、不支給とされた内縁の女性が争った裁判に、川崎市に住む戸籍上の妻(76)は参加していない。