ハンズオン型コンサルの活用や
CIOの時限採用でDXを加速する
一方、現場がSaaSや生成AIを独自のアイデアで利用するのを許容することも大切だ。デジタル化の初期段階にある企業などでは、情報システム部門が主導するよりも、現場からボトムアップでデジタル技術が活用される方が、ミスマッチは起こりにくい。「『野良I T』とか『勝手I T』とかいわれますが、現場が課題解決のためにデジタルツールを選別し、テスト的に導入し、うまくいったら全社に展開していく。そのためには、現場が自由裁量で使える予算を認めることです」(根来教授)。
デジタル技術が社内で広く使われるようになって、「全社統一システムに切り替える方がより効果的という段階になったら、切り替えればいい。現場自主活用と全社統一活用のバランスは、技術進歩や組織状況によって違ってきます」と根来教授は言う。
コンサルタントや有力なデジタル人材の活用も、デジタル化促進の一つの方策だ。
「先進的なデジタルツールを他社に先駆けて導入し、業界内で競争優位を築くために、ハンズオン型コンサルティングサービスを活用することには意味があるでしょう。あるいは、社外で実績のあるデジタル人材に5年間などの期間限定でCIO(最高情報責任者)就任を要請し、デジタル化に拍車を掛けるといったことはDXを早める上で有効だと思います」(根来教授)。
では、デジタル技術が進歩していくことで、産業や経営は今後どう変わっていくのか。この質問に対して根来教授は、「10年後を予測することには意味がなくなりつつある。技術の進歩があまりに速くて、10年先がどうなっているかは、誰にも分からないからです」と言う。
「生成AIが世に登場したのが2022年の暮れ。それから約2年たっただけで、生成AIにホワイトカラー業務の一部を任せられるまでに進化した。まさに劇的な速度でテクノロジーが進歩しているのです」(根来教授)。
現在のAIの主流は、統計学を基盤にしたニューラルネットワークを使ったモデルで、画像認識などの分野では判定を任せる事例もあるが、多くの場合は、課題解決の選択肢を示して人の意思決定を“支援”するまでは可能だが、AIに意思決定そのものは任せられないと考えるのが妥当だ。
「しかし、その限界は緩くなっていくでしょう。また、今も世界のどこかで現在の主流モデルとは異なる技術をベースにしたAIが開発されている。それがいつどのようなサービスとして発表されるか分からないし、それで世の中がどう変わるのか、必ずしも予測がつきません」(根来教授)。