デジタル技術の進歩が加速する中で
経営者に託される二つの使命とは?
この状況における経営者の使命は二つある。一つは、「現存するデジタル技術をいち早くビジネスに活用することと、そのためのハードの投資をどうするかを決めることです。ただし、技術の進化速度は速いから、投資の規模が大きい場合は、投資が5年で回収できるかどうかを判断しなければいけない。もっとも、SaaS型のAIサービスは、投資規模は小さいことがほとんどです」と根来教授はアドバイスする。
経営者に託されるもう一つの使命は、「トレンドの見極め」だ。例えば、完全自動運転の乗用車が一般道路をいつ走るようになるのかの予測は難しいが、トラックが高速道路で決められたレーンを走る場合などの自動運転は遠くない将来に実現するだろう。経営者はそうしたトレンドを見極めて、自社にとって必要な対応策を早めに打たなければいけない。

早稲田大学名誉教授
根来龍之 氏
ねごろ・たつゆき●京都大学文学部哲学科卒業。慶應ビジネススクール修了(MBA)。早稲田大学教授などを経て現職。現在、大学院大学至善館特命教授、デジタル経営研究センター所長を兼務。『集中講義 デジタル戦略』『プラットフォームの教科書』『ビジネス思考実験』『事業創造のロジック』(いずれも日経BP)、『代替品の戦略』(東洋経済新報社)など著書多数。
その際、「デジタル化の進展は産業ごとに違う」ということを押さえておく必要がある。「金融、流通、製造などそれぞれの産業ごとにデジタル化の進展は異なる。だから、デジタル技術のトレンドや活用については、産業別に考えるべきです」と根来教授は言う。
根来教授が現在執筆中の書籍の肝はそこにあり、「産業別にデジタル化がどう進んでいるかを、一つのフレームワークで分析する」ことを示す内容になるという。
DXがなかなか進まない中堅・中小企業だが、悲観する必要はない。ファーストペンギンになることを恐れず、SaaSや生成AI、ハンズオン型コンサルなど、外部リソースを積極的に活用することで、まだまだキャッチアップすることができるだろう。
名古屋商科大学ビジネススクール 根来龍之教授インタビュー(前編)はこちら