夫婦が迷いを整理して
納得できるように

 そして、夫婦がそれぞれ悩んでいることを言語化し、話し合い、導き出した答えに納得する。川端医師はその手伝いをしながらも、特定の結論へ誘導しないよう心がけている。

「検査を受けるか迷う夫婦は多いです。夫婦の迷いを整理して、夫婦で納得できる結論を出すお手伝いをしています。NIPTを受ける、受けないのどちらが正しいということはありません」

 一方で、遺伝カウンセリングで不安がすべて解消できるとは考えていないという。それでも希望する人に検査を提供する。

「NIPTの結果が陰性だったら、夫婦は多少安心できるかもしれない。だけど、それですべての不安が消えるわけじゃない。

 NIPTでわかることは病気の一部にすぎず、NIPTという検査は産科診療のごく一部なのです。通常の妊婦健診などを通じてきちんとフォローしていくことの方が大事だと考えています」

出生前検査を受ける前に――遺伝カウンセリングで医師が伝えること『出生前検査を考えたら読む本』(毎日新聞取材班 新潮社)

 日本医学会の認証を受けずにNIPTを実施する美容クリニックなどで、カウンセリングを原則実施するとホームページなどで掲げている施設は少ない。

 タブレットで説明動画を見てもらうことで、説明を代替する医療機関はある。

「情報提供はタブレットの動画でできます。だけど、妊娠に対する漠然とした不安は、動画を見ただけではわからないので、人が介入する意義は大きい。

 特に、NIPTで何もかもわかるとか、誤った認識に基づいて検査を受けにくる人がいます。医療機関から正しい情報を提供したり、夫婦の迷いや心配ごとをゆっくり聞いたりする場が必要です」

【毎日新聞取材班メンバー】
名前:原田啓之
肩書:社会部記者
略歴:2005年入社。くらし医療部で、新型コロナ対策やゲノム医療など取材。共著に『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(毎日新聞出版)。

名前:村田拓也
肩書:宇都宮支局次長
略歴:2009年入社。松山支局、京都支局、大阪社会部、くらし科学環境部。警察や厚生労働省を担当。「8050」世帯の孤独死や新型コロナの自宅療養死など取材。

名前:寺町六花
肩書:くらし科学環境部記者
略歴:2018年入社。福島支局で福島第1原発事故の被災地を取材。現在、生殖医療や生命科学を中心に取材。
名前:熊谷豪

肩書:くらし科学環境部デスク
略歴:2002年入社。くらし医療部、長野支局次長。阪神・淡路や東日本の大震災、戦後補償を中心に取材。現在、医療を担当。