ここに来る前に夫婦で軽く話し合ったとき、「中絶」の選択肢が浮かんだ。だけど、本当に陽性となったときにどう思うのか、まだイメージできていない。
「おおよそ答えは出ているけれど、実際にそうなったら迷うだろうね。妊娠でこれだけ喜んじゃってるから」と話す妻に、夫は「そうね」と相づちを打つ。
一方、川端医師の提案は、妻の心に残っていたようだ。
「先生がおっしゃっていましたが、もし陽性だったら、ダウン症のお子さんを育てている方にお話を聞きたいですね。ダウン症のお子さんはかわいい、という話を聞きますし」
2人は揺れる心情を漏らしつつ、NIPTの採血へと向かった。
「もし陽性だったら」と
毎回問う理由は……
後日、川端医師にも話を聞いた。
「もし陽性だったら」という投げかけは、NIPTの遺伝カウンセリングで毎回しているという。夫婦そろって「中断する」と即答したときは、カウンセリングは長くは引っ張らず、必要な情報だけ伝えて終えるようにする。
一方、夫婦が迷っていたり、「親戚にダウン症の子がいて」などと話し始めたりすることがある。
その時は、川端医師が夫婦に背景事情を聞いて、何が心配なのか一緒に整理する。夫婦の反応を見て、カウンセリングでの対応を変えているのだ。
この問いを大事にするようになったきっかけがある。かつて、NIPTを受けて陽性となった女性から「妊娠のことはもう一切聞きたくない」「妊娠をなかったことにしたい。忘れたい」と言われた。
女性は精神的にショックを受け、川端医師の話を冷静に聞ける状態ではない。羊水検査を受けずに、すぐに中絶するため、他の医療機関へ移っていった。
この一件以降、「NIPTは異常を見つけにいく検査だから、陽性に出ることもあると、きちんと考えておいてほしい」と願い、必ず検査前に陽性だったときのことを詳しく話すようになった。