実際に陽性になった後では頭に入らないと思うので、検査前に必ずお伝えしています」
すると、川端医師の隣に座る病院の遺伝カウンセラーが、夫婦に尋ねた。
「その辺について話し合いをされてますか」
「何もしてないです」
夫が早口で答える。
「ご夫婦でお話しされて一致していたら、それがその時点でのベストですかね」
と重ねる遺伝カウンセラー。妻は細い声でつぶやいた。
「もしもの時は……という話はちょっとしていて……中断かな……って」
実は、夫婦の頭の中には、中絶の選択肢があった。
重苦しい空気が漂う。川端医師は肯定も否定もせず、フォローした。
「決めていただいたことを最大限サポートしております。それは全然間違いだということはありません」
一通りの説明を終えて、川端医師がNIPTを受けるかどうか確認する。妻は「はい」と即答しつつ、ふと疑問に思ったことを口にした。
「羊水検査をしないで、NIPTの結果だけで判断する人もいるんですか」
妻は頭の中で、羊水検査で調べ直しても結果は変わらないのではないか、もし中絶をするなら早い方が負担は軽いだろう、と思い浮かべていたようだ。
川端医師はすかさず否定した。
「基本的にそれはしないです」
NIPTでは、誤って陽性と出る「偽陽性」が一定割合で出る。羊水検査をしなければ、本当は陰性の赤ちゃんも中絶する可能性があり、医療者としては受け入れがたいのだ。
妻は説明に納得し、それ以上の質問はしなかった。
夫婦は、テーブルに置かれた同意書に署名した。
カウンセリングを受けて
揺れる夫婦の心情
約40分間の遺伝カウンセリングが終わり、私たちは夫婦に話を聞いた。
夫婦は、説明がわかりやすかった、と口をそろえる。
夫は、NIPTへの理解が深まったものの、「いい結果じゃなかったときの話を考えると、より不安になりますね」。妻は43歳という年齢に不安を感じていて、「NIPTを受けて、どこか安心したい気持ちがある。でも、結果を見てどうなるのかな」と話す。