新大統領・李在明と田中角栄の奇妙な共通点
2025年6月3日、韓国に新たな大統領が誕生した。李在明(イ・ジェミョン)である。かねてより進歩系政党の旗手として注目されてきた人物だが、その経歴や政治スタイルは、単なる選挙結果以上の意味を持つ。
特に日本の戦後政治を知る者にとって、この名前に重なるイメージがある。それは、1970年代の日本を席巻した「庶民派宰相」田中角栄である。両者の歩みは、スケールや時代背景こそ異なるものの、驚くほどの共通点を見せる。
田中角栄は、新潟県の貧しい家庭に生まれ、小学校卒業後に集配人や建築現場作業員として働きながら学問を修め、やがて政界に進出した。「今太閤」とも呼ばれ、戦後日本の象徴的な成功者の一人とされた。
一方の李在明も、慶尚北道の貧しい家庭に育ち、中学卒業後は工場労働に従事した。その後、独学で司法試験に合格し、弁護士として社会的な地位を築いた後、政界入りを果たした。両者に共通するのは、エスタブリッシュメントとは無縁の出自から、自力で権力の頂点にまで登り詰めたという「成り上がり」の物語だ。
田中角栄が「日本列島改造論」を掲げ、道路・新幹線・港湾整備などによって地方経済を潤したように、李在明も「基本所得」や「地域通貨」「公共住宅」など、庶民に直接利益をもたらす政策を推進してきた。韓国メディアではしばしば「ポピュリスト」と形容されるが、その背景には都市中心・財閥優遇の政治に対する批判がある。また、田中角栄が地方の建設業界や農村票を取り込んだように、李在明も地方の青年層・労働者層・自営業者といった社会的に脆弱な層から根強い支持を得ている。
対立を生むカリスマ性と法的リスク
似ているのはそれだけではない。両者に共通するのは、強烈なリーダーシップと信念、そして敵対勢力との鋭い対立である。田中角栄は自民党内の主流派を凌駕する勢いを持ちながらも、政敵との抗争やメディアによる激しい批判にさらされた。李在明もまた、韓国政界の保守系勢力や検察当局と常に緊張関係を持ち、政治的攻撃の的となってきた。
結果として、両者は「熱狂的に支持され、激しく嫌われる」タイプの政治家となった。すなわち、国民統合ではなく政治的分極を加速させる存在でもあるということだ。
田中角栄は、ロッキード事件という国際的汚職事件で首相を辞職した後に逮捕・起訴され、有罪判決を受けるに至った。一方で、政界への影響力は晩年まで維持し、田中派を通じて日本政治に巨大な影を落とし続けた。
李在明も現在、収賄・背任・選挙法違反など5件の刑事裁判を抱えている。そのうち1件では最高裁で有罪が認定されたものの差し戻しとなり、政治的・法的帰結は未確定のままである。とはいえ、李がそのような「法的リスク」を抱えながら大統領にまで上り詰めたという事実は、韓国社会の政権交代への渇望と、彼個人への期待の大きさを物語る。