いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

「お金にセコい人」と「気前がいい人」人生の収支はどっちが得か?Photo: Adobe Stock

ズルいことをしてお金を得ている人もいるが……

 正直者がバカを見る世界はいやだ。

 真面目に働き、できる範囲でボランティアをしたり寄付をしたり、良いことをしたいと思っている人たちが、損をしている気がする。

 ズルいことをして得をしている人たちがいるのはおかしいじゃないか!

 SNSでもこういった声はよく目にする。私も「そうだ、そうだ!」という気持ちで「いいね」ボタンを100回くらい押している。

 同じようなことは、2000年前からあったらしい。

 ストア哲学者のエピクテトスは「ズルいやつが金銭的にあなたに勝っているのは当然だから、放っておけ」と言っている。

本当の意味で価値のあるもの

「ええ」と言ってあなたは続ける。
「ですが、狡猾な人のほうが多くを手にしている」
それはどういう面で?
「金銭において」
金銭面に関して狡猾な人があなたに勝っているのは、彼らはこびへつらい、恥知らずなことをし、夜も眠らず金銭を追い求めているからだ。
よって、それはいささかも驚くことではない。
目を向けるべきは、誠実さや思慮深さの面で彼らのほうが多くを手にしているかだ。
これらに関しては事情は変わってくるはずだ。
あなたのほうが勝っている部分では、あなたのほうが多くを手にしているのだから。
(エピクテトス『語録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より

 エピクテトスは奴隷出身という異色の哲学者だ。わかりやすくユーモアのあるトークでストイシズムの知恵を伝え、大勢の尊敬を集めたという。

 奴隷だったわけだから、エピクテトスの環境は決して良くなかった。しかしズルいことをせず、自分に与えられたものを生かし、多くの人からの信頼と尊敬を手に入れた。これこそ真に幸福な人生だと考えていたのだろう。

 お金は本来、手段にすぎない。それを目標のようにとらえて「お金ひとすじ」でズルいことをしたり自分のことばかり考えてケチケチと貯め込むよりも、世のため人のために気前よく財産を使える人のほうが、精神的に満足な人生を送ることができる。

 目先の欲に流されず、人間性の面で多くを手にすることを目標に、幸福な人生を築いていきたい。

(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)