いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

不安や恐れが幸せを遠ざける
以前、チベット仏教の高名な僧侶にお会いした。見るからに慈愛に満ちているその方が自然に人を助けるので、「人に与え続けると、自分の分が減っていきませんか?」と聞いてみた。
たとえば、お腹がすいている人にリンゴをあげたら、自分のリンゴはなくなってしまう。
困っている人がいたらつねに手を差し伸べるというのは、そうしたいと思いつつなかなかできない。与えれば与えるだけ、自分がすり減るのではないかという恐れがあるからだ。
その方は、「その気持ちはわかりますよ」と共感を示したうえで、それでも、「不安や恐れが幸せを遠ざけてしまう。慈しみの気持ちは減ることはない。善いと思った行動をするだけだ」といった話をしてくださった。そして、「自分を愛しなさい」とも。
古代ギリシャで生まれたストイシズムでも、「善の泉は尽きることはない」といった教えが説かれている。
内面の泉を掘り続ける
内側は善の泉であり、あなたがつねに掘るなら、それはつねに湧き出るだろう。(マルクス・アウレリウス『自省録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
外を見ると、いろいろ足りないものに目が行く。
しかしストイシズムは、人は「内面」という自分の力でコントロールできるものに注力すべきで、外部のコントロールできない事象にやきもきしても意味がないと説く。
さらに、その内面は「知恵」「正義」「勇気」「節制」という美徳が備わった、無限の「善の泉」だという。
たとえば毎日イラッとすることを言ってくる相手がいたとして、イラッとするかしないかというのは「コントロール可能」なので、自分で選択できる。
それだけでなく、すべての人に思いやりを持つべきというのがストイシズムの考え方だ。ただし、その「すべての人」には自分も含まれる。他者に配慮しつつ、他者と同じように自分のことも敬い、尊重するのだ。
人に重箱の隅を突くようなことを言われたときは、意識して感情を泡だてずに「ありがとうございます」と相手に配慮する。それでいて卑屈にならず、「こういうことも考えられますか」と自分の意見も提示する。
そうした姿勢は、他者だけでなく、自分も大切にすることにつながる。
自分を愛し、自分の中にある美徳を見つめ、善の泉を絶えず掘り続けていきたいと思う。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)