
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第15回では「委託販売モデル」に隠された落とし穴について解説する。
経理が警告「会社の存亡にかかわる」
主人公・花岡拳の思惑もあって、Tシャツ工場の技術責任者・ヤエコ(片岩八重子)と、格闘技イベント「豪腕」のグッズ担当・一ツ橋物産の井川泰子は、豪腕グッズの内覧会でまさに一触即発の状態となった。
井川の部下・高野が「ほかの商談がある」として井川をその場から離れるようすすめる。しかし井川は、花岡とヤエコに対して「二人まとめて痛い目に遭わせる」として、これまで拒否してきた取引に応じる姿勢を見せる。
だがそれこそが、花岡が取引窓口を開くための作戦だった。花岡が心の中で「こっちの網にひっかかったな!」とほくそ笑む一方、井川は井川で花岡たちに対して「このヤマザル 蟻地獄に引きずり込んでやる!」と自信を見せる。
会社に戻った花岡たちだったが、社員の大林隆二と日高功は、井川たちが嫌がらせのような取引を仕掛けてくるであろうことを予見する。そして2人は「相手の条件次第では即刻撤退すべきだ」と話し合う。
実際のところ、花岡たちの会社にとって、一ツ橋物産との取引はリスクの高いものだった。経理担当の菅原雅久は、シミュレーションの結果として「(取引を)続ける限り赤字が膨らむ」「取引関係を利用して新たな事業展開を図らないと、会社全体の存亡にかかわる」と花岡に警告する。
そんな状況で迎えた打ち合わせ。井川は法外な要求を押しつけてくる。それに対して、花岡はどう答えるのか。
悪意しかない取引条件

井川は「豪腕がイベントを開催するごとに、在庫を500〜800枚用意すること」「取引条件は一ツ橋物産による仕入れではなく、完全委託販売」「売り上げは一ツ橋物産が管理し、版権使用料やマージンを53%差し引いて支払う」「支払いは90日の手形」という条件を提案する。
その条件を出した井川は「私にタテ突くとこうなる」「もっとたっぷりイジメてやる」とほくそ笑むのだが、この条件がいかに花岡たちにとって厳しいのか、もう少し解説したい。
花岡たちはもともと、自分たちが手がける国内産のTシャツを、一ツ橋物産に卸すだけでいいと想定していた。
しかし「完全委託販売」というのはつまり、花岡たちがTシャツを納品しても、それが売れるまでは収益にならず、売れ残れば返品で在庫リスクを抱えるということだ。これは事業を開始して間もなく、資金的に余裕のない花岡たちにとっては大きなリスクとなる。
またTシャツの上代(販売価格)・下代(仕入れ価格)こそ提示されていないものの、マージンが53%取られると赤字になる計算だという。経理の菅原も指摘していたとおり、売れれば売れるほど赤字が膨らむことになる。
それに加えて、支払いが90日の手形だという。つまり、イベントのために大量のTシャツを用意しても、売り上げが立つのはイベント後の集計が済んでから。そして現金が入るのはそこからさらに90日後。
しかも、仮にTシャツが売れなければ、在庫がそのまま自社に戻ってくる。生産費用から物流費、人件費まで、すべてを先に負担し、利益は保証されないというわけだ。
これは委託販売というビジネスモデル自体の是非を問うような話ではない。だが、この場における井川の提案がいかに悪意あるものかは伝わるのではないだろうか。
豪腕グッズの取引において法外な要求を押しつけてきた井川だが、花岡は、その提案を受け入れる覚悟を決める。次回、花岡が自身の決意を社員たちに語る。

