
毎年6月4日から始まる1週間は「歯と口の健康週間」だ。子供向けの啓発と侮らず、成人こそ口腔の健康に注目してほしい。歯周病や歯周炎など「口の中の慢性的な炎症」が中高年以降に発症する心血管疾患のリスクの一つであるほか、お口と歯の健康が外科手術や抗がん剤治療に影響することもあるからだ。
たとえば全身麻酔の手術では、呼吸を確保するためチューブを口から気管内に挿管するが、この際に前歯がぐらついていると挿管の衝撃で抜けてしまうことがある。抜けた歯が気管に詰まり、窒息することもあるのだ。
また、口腔内の細菌がチューブを伝って気管から肺に入り込み、肺炎を引き起こすリスクもある。術後肺炎の発症率は1%程度だが、重症化した場合の致死率は21%と決して低くはない。中等症でも身体へのダメージは大きく、入院期間が延びてしまう。
抗がん剤の治療前、治療中、治療後も歯科受診が重要だ。一般的な抗がん剤では、口内炎や味覚異常などのお口の副作用の発症頻度は5~40%、特に強い抗がん剤では9割以上の頻度で生じ、もともとの口腔ケアが不十分だと細菌感染から粘膜の炎症が強くなる。
また、一時的な免疫低下により歯周炎や虫歯が悪化するなど、痛みと腫れで「食べられない」状態を引き起こし、人によっては抗がん剤の減量や中断を余儀なくされることもある。
正直なところ全身麻酔に伴うリスクや抗がん剤の副作用は、100%避けることはできない。抗がん治療を全うするには、治療前からお口に目を配ることでリスクを減らし、症状を悪化させないことに尽きるのだ。
日本歯科医師会では抗がん治療に詳しい歯科医を養成するべく、2012年から「全国共通がん医科歯科連携講習会」を実施。講習会を修了した歯科医を「がん診療連携登録歯科医」と認定している。通常は手術や抗がん剤治療などを行う病院から適当な登録歯科医を紹介してもらえるが、できれば家の近所に何でも相談できる登録歯科医をつくっておきたい。
なにせ2人にひとりががんになる時代なのだ。この6月は「がん診療連携登録歯科医」を検索し、将来に備えておこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)