したがって、中国が台湾を武力で統一しようとすれば、大規模着上陸作戦の実施が不可欠となると考えられる。だが着上陸作戦は、米軍の統合ドクトリンにおいても「あらゆる軍事作戦のなかで最も困難なものの1つ」と位置付けられているように、どの軍隊にとっても難易度が高い。

着上陸に適した海岸線は
台湾の約10%しかない

 着上陸作戦の成功には、航空優勢を確保したうえで、防御側を凌駕(りょうが)する地上戦闘部隊を迅速に集結させ、防御側よりも迅速かつ断続的に上陸地点に送り込むための兵站(へいたん)を整えるという3つの条件を揃えなければならない。

 人民解放軍には、約17万人の現役軍人と160万人ほどの予備役を有する台湾軍に対し、約159~230kmの台湾海峡を約8時間かけて渡った先で、この条件を揃える必要があるということだ。

 だが、着上陸に適した海岸線は台湾の約10%しかないとされている。台湾東岸は崖が多く、水陸両用部隊は6mの高波と集中豪雨が多い海域を迂回(うかい)する必要がある。

 一方、台湾西岸は泥の多い地帯が続き潮の流れも速いため、泥にはまるのを避けようとすれば着上陸に適した限られた地点まで高波の中を進む必要がある。

 つまり、中国本土の港湾で地上戦闘部隊や後方支援機材を揚陸艦やRO-RO船(ロールオン・ロールオフ船。クレーンを使わず車両が自走して乗り込むことができる貨物船)などの軍民両用船舶に積み込み、台湾海峡を渡って辿り着いた沖合で戦闘部隊や支援機材の積み下ろしを行ないながら、着上陸開始に十分な戦力が一定程度集結するのを待つ間が、侵攻作戦において最も脆弱(ぜいじゃく)な瞬間となる。

 そこに、米軍と台湾軍(場合によっては自衛隊も)が執拗(しつよう)な攻撃を加えて大損害を与えることができれば、その時点で武力による台湾統一の可能性は相当難しくなると考えられる。近年、日本や米国、台湾の防衛力整備において、長距離対艦攻撃能力が重視されているのにはこうした背景があるのだ。

 しかし当然ながら、中国はこのような作戦上の弱点を自覚しており、対抗手段を整えてきた。