それゆえに、日本政府が「スタンド・オフ防衛能力」と呼ぶ長距離精密誘導兵器は一層重要性を増している。その一例として、日本は地上・艦艇・航空機から発射可能な国産ステルス巡航ミサイル・12式地対艦誘導弾能力向上型の開発・取得に並行する形で、米国製のトマホーク400発の取得を2025年度から開始することを決定している。

 ただし、この400発というのは驚くほどの数ではない。大抵の巡航ミサイルは、比較的低速(亜音速=旅客機程度)で飛翔(ひしょう)するため、弾道ミサイルに比べて迎撃されやすい。そのため、ある程度のまとまった数を一斉発射して相手に迎撃を難しくさせるのが一般的だ。

 たとえば、2024年1月に米軍がイエメン国内のフーシ派の拠点30カ所を攻撃した際には、たった1日の攻撃で80発以上のトマホークを使用している。

 もしこれが先進的な防空システムを有する人民解放軍やロシア軍に対する攻撃であれば、より多くの巡航ミサイルが必要になることは想像に難くない。400発の巡航ミサイルというのは、本格的な戦闘が始まれば、数日のうちに撃ち尽くしてしまう程度の数なのである。

日米が中国の台湾侵攻を防いでも
次なる朝鮮半島有事には対処できない

「なら、もう少し追加で買っておけばよいのではないか」。そう考えるのは自然な結論だが、ことはそれほど単純ではない。米国側の備蓄や生産体制にも限界があるからだ。

 米国防省の資料によると、過去10年に米海軍が取得したトマホークは1234発とされている。米海軍は2024年1月以降もフーシ派に対する巡航ミサイル攻撃をたびたび行なっているから、年平均の取得数を123発としても、前年度に取得した在庫を軽く上回る数のトマホークをたった数日で消費してしまっている計算になる。

 こうした現場需要に対する生産レートの低さは、JASSM-ERやLRASMといった他の長距離精密誘導兵器やSM-3などの防空ミサイルにおいても同様である。

 仮に中国の台湾侵攻を失敗させられたとしても、その過程で日米が主力戦闘機や艦艇、ミサイル防衛能力の大半を失ってしまえば、その後数年内に朝鮮半島有事が発生した場合にまともに対応できる状態ではなくなってしまう。