中国が台湾を制圧しうる
唯一のシナリオ

 その主力が急速に増強を続ける核・非核両用の中距離ミサイル戦力である。

 台湾防衛の要となる西太平洋における米軍の戦略投射基盤は、嘉手納や三沢、横須賀などの在日米軍基地、グアム、そして前方展開した空母等とそれほど多くはない。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)が行なったウォーゲームでは、中国は24通りの侵攻シナリオのうちほぼすべてにおいて台湾の制圧に失敗しているが、そのなかで唯一制圧に成功したシナリオの前提状況は「日本が米国に対して、在日米軍基地の使用を認めない」というものであった。

 つまり、大量の中距離ミサイルを用いて、「米国や台湾を支援しなければ、日本を攻撃することはない」といった心理的脅しや物理的妨害を仕掛けることにより、日本を台湾防衛戦線から脱落させることができれば、中国は米国の戦力投射基盤をグアムやハワイまで後退させ、台湾周辺における作戦環境を決定的に有利な形に変えることができるというわけである。

 米国防省が毎年公表している中国軍事力報告によると、日本全土を射程に収める人民解放軍の準中距離弾道ミサイル(MRBM)の保有数は、2022年時点では500発、2023年時点では1000発と凄まじいペースで増強されており、2024年時点では1300発に達している。

 筆者らハドソン研究所の分析チームが行なった評価では、地上発射型ミサイルだけでなく爆撃機などからの攻撃能力も加味すると、人民解放軍は2030年には、中国本土から3200km以内に位置する850カ所の目標に対して2回、1400km以内であれば4500カ所を超える目標を2回攻撃できるようになると予想される。

台湾侵攻を阻止するには
日米の多大な犠牲が必要

 このような圧倒的な戦域打撃能力を前にした場合、人民解放軍が台湾周辺での封鎖を開始したり、本格的な侵攻準備の兆候を確認できた場合であっても、日米は駐機中を撃破されるリスクを考慮して、航空戦力を沖縄や九州などに集中配備することは困難となり、より後方・広範囲への分散を強いられるのは避けられない。