だが、台湾から朝鮮半島へと危機が連続するシナリオは、数年間の猶予をもってではなく、ほぼ同時に起こりうる可能性すらある。
これまで米国の戦略コミュニティやアジア専門家の間では、付かず離れずの中国・北朝鮮の特殊な関係に鑑みて、両国が台湾と韓国に対して完全に調整された形で同時攻撃を開始する可能性はそれほど高くないとの見方が一般的であった。
台湾・朝鮮半島連動という
悪夢のシナリオの現実味
しかし最近では、どちらかが先に戦端を開き、もう一方がそれに反応する形で、危機が台湾と朝鮮半島にまたがって拡大するシナリオも十分起こりうると考えられるようになってきている。
たとえば、中国に戦闘機やミサイル部隊の機動展開、海上輸送部隊の集結といった台湾侵攻の兆候が見られれば、米国もそれに対応する形で在日米軍基地(場合によっては在韓米軍基地)を含む西太平洋への戦力の集結を開始する可能性が高い。
そのとき北朝鮮は、朝鮮半島周辺で米軍のプレゼンスが急速に拡大し、自衛隊(場合によっては韓国軍)の作戦準備および支援態勢が着々と進んでいる様子に強い危機感を覚え、これらに先制攻撃を加えようとするかもしれない。

あるいは、中国が台湾だけでなく日本や韓国の軍事拠点に対する攻撃を開始したのをチャンスと見て、北朝鮮が南北間の北方限界線や非武装地帯における何らかの現状変更行動を起こしたり、日韓に対する攻撃に便乗するといったシナリオも考えられなくはない。
また人民解放軍ロケット軍のうち、北朝鮮の真上に位置する吉林省に拠点を置く第655旅団や内陸部山西省の第665旅団、河南省の第666旅団などから各種MRBM・IRBMを日本に向けて発射する場合、それらは朝鮮半島上空を通過することになる。
これを踏まえると、中国は対日攻撃の開始に合わせて、北朝鮮に対するなんらかの事前通告や事前調整を行なう可能性も十分考えられる。