社会学者の中村香住は「親密性の労働」と経済の関係性について、メイドカフェで働く労働者を対象に調査を行なっている。
中村によると、メイドの労働は「メイド」と「客」という役割が固定されたつながりがあり、そのうえで「通常の『親密性の労働』と異なり、メイドという役割や、そのなかでも特に自分自身がメイドとしてどのような姿勢や性質、要素をもっているかという『キャラ』を挟んだうえで労働が営まれている」としている(注3)。
「源氏名」という
キャラを通して働くこと
メイドのキャラは自身と切り離せるものではなく、キャラをどこまで演じて客に消費させるかは、メイド個人の一存によるという。
客による消費に加え、客側からの好意や承認といった何かしらの「親密性」に当たるものを差し出される点なども、ホストの労働と酷似している。
こうした親密性を「キャラ」を挟んだうえで労働としてもち込んでいる職業は、メイドやホストをはじめとした「源氏名」を使う職業全般に言えることだろう。
ホスト、キャバ嬢、コンカフェやメイドカフェの店員といった「接客業」から、アイドルの「芸名」など、愛称なども含めた本名とは別の名前を使い、そこにキャラクター性がある職種はいずれも親密性の労働を行ない、自分と客の親密性をマネジメントすることで対価を得ている。
メイドのように、SNSというバーチャル空間でのやり取りと、店舗という固定された舞台でのみ「キャラ」を保持するのと違い、ホストはLINEや電話、旅行といったさらに親密性を伴う場所での「キャラ」を保つ労働を求められる。
あらゆる場面でプロとしてキャラを長時間維持し続けるのは、極めて骨の折れる労働だと言えるだろう。
(注3)中村香住「メイドカフェにおける店員と客の親密性のマネジメント『親密性の労働』としての『関係ワーク』の実践」(中村香住ほか編著『消費と労働の文化社会学』ナカニシヤ出版、2023年)