このシグナリング理論の考え方を土台にすると、大学進学後の学びよりも、選抜性の高い大学の入試を突破したこと自体が重要だということになります。
「学歴フィルター」は存在する?
大学時代の学びは所得に関係する
就職活動の文脈でしばしば語られる「学歴フィルター(特定の偏差値以上の大学出身者でなければ次の選考に進めないこと)」も、この考え方に近い概念といえるでしょう。
もし「学歴フィルター」が存在しているとすれば、人事課は大学進学後の学びとは無関係の次元で選抜を行っていることになります。
とはいえ、以上の点については、追記が必要です。
まず提示したいのは、大学時代の学びにも所得向上効果が認められることです。大学時代の学びがキャリアにどのような影響をもたらすかについてのエビデンスとして、社会工学者・矢野眞和さんらの研究成果が挙げられます。
この研究は、いくつかの大学の協力を得て実施した卒業生調査を分析したもので、「大学時代の学び」と「働いている現在の学び」、そして「現在の所得」の関係が検証されています。
「現在の所得」は労働市場でのその人の価値を反映すると考えられますが、ではその価値を規定しているのは「大学時代の学び」なのか、それとも「働いている現在の学び」なのか。
言い換えれば、大学時代に学んでいた人が出世するのか、それとも働いている現在学んでいる人が出世するのか、という疑問に答えようとする分析です。
大学時代に学ぶ習慣を獲得すれば
その後のキャリアが豊かになる
結果は、図表10のとおりです。ポイントは3つあります。
