なので、緊急謝罪会見などで登壇する社長など経営陣としては「現場の人間が勝手にやったことなのでこっちも寝耳に水ですよ」と言いたいのが本音だ。

 しかし、それをグッと抑えて「経営責任を痛感しております」「このような問題に気づくことができず情報共有体制の見直しを進めます」などと言って、個人ではなく組織全体の問題として扱わないといけない。

 なぜかというと、個人や部署など現場の責任にすると、マスコミから「責任逃れではないか!」と犯罪者のように吊し上げられるからだ。近年でわかりやすいのは、中古車販売大手の「ビッグモーター」(現・WECARS)の保険金不正請求だ。

 覚えている方もいるだろうが、あれは厳しいノルマで現場の従業員が不正に走らざるをえなかった、という側面が強く、経営陣が現場に不正を命じていたわけではない。そこで当時の創業会長は、「報告書を受け取るまで全く知らなかった」「従業員を刑事告発する」(後に訂正)などと言って大炎上。その後の「ビッグモーター報道」がどんなトーンだったのかは説明の必要はないだろう。

 さて、そこで想像していただきたい。このように何十年にもわたって日本社会に「会社の問題を現場に押し付けるのは許されない責任逃れ」という価値観を広めてきたマスコミがこんなことを言い出したら、読者視聴者はどう感じるだろうか。

「バラエティ番組の中にはいろいろ差別を助長するものもあるけれど、報道はつくっている人間も部署も全然違うんで、そこは切り分けて大目に見てよ」

「今回の発言、これまでの記事でうちも似たようなことを書いてたけど、まあ首相とか政府を叩くってのは新聞の大事な使命だし、今回は舌禍ということで大騒ぎしておきますね」

 おそらく多くの人たちの頭の中に「マスゴミ」という言葉が浮かぶのではないか。そう、これこそが近年、テレビや新聞が嫌われている最大の理由だ。「他人は厳しく叩くくせに、自分の問題は大甘」なのだ。もし周囲にそんな人がいたら、やっぱりみんなに嫌われてしまうのではないか。