DXが進まず、人手不足で悩む中小企業の生産性向上を促進する「IT導入補助金」を利用しない手はない

企業のデジタル化推進を目的として、2017年よりIT導入補助金制度が実施されている。同制度を所管する中小企業庁の経営支援部生産性向上支援室室長補佐でIT導入補助金担当の村山裕紀氏へのインタビューを前後編でお届けする。前編では、デジタル化による生産性向上の実態やDXに向けた手順などを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 大坪 亮、文・撮影/嶺 竜一)

企業の生産性向上の支援を目的とした「IT導入補助金制度」

――2017年にIT導入補助金制度がスタートしました。どのような理由でこの制度が設けられたのでしょうか。

 制度の正式名称は「サービス等生産性向上IT導入支援事業」です。17年当時は特にサービス業のITツールの活用が進んでおらず、飲食、宿泊、介護、小売など、人手に依存しがちな業態でありながら人手不足に悩むサービス業の生産性の低さが大きな問題でした。これをITツールの活用によって改善し、日本企業全体の生産性を高めようという目的で事業がスタートしました。

 その後、デジタルツールの必要性は高まりました。新型コロナウイルス感染症の流行によるオンライン会議などの増加、インボイス制度に対応するシステムの導入、セキュリティ対策の重要性の高まりなど、緊急性を要する社会ニーズが急増しました。そこで、対象業種や支援内容を拡充し、現在はより多くの産業、より多くの目的でのIT導入支援となっています。

――IT導入補助金は、主に中小企業・小規模事業者を対象にしています。なぜですか。

 大企業に比べ、中小企業・小規模事業者はデジタル技術の活用やITツールの導入などのデジタル化が遅れているためです。

 一般にデジタル化の度合いは、4つの段階に分けて考えられます(図1参照)。

段階1:デジタル化が全く未着手(アナログ状態)

 紙や電話を使用するアナログ業務が中心で、デジタル化が図られていない状態です。例えば、受発注は電話やFAXで実施、勤怠状況は紙の出勤簿にはんこを押して管理するなどです。

段階2:デジタイゼーション

 デジタルツールの活用で、業務標準化・業務効率化による事務負担軽減や、コスト削減の効果が少しずつ生まれている状態です。例えば、顧客との連絡手段をFAXから電子メールに切り替えたりしています。

段階3:デジタライゼーション

 いくつかのデジタルツールやインフラを活用し、業務効率化によるコスト削減や、データ利活用による業務改善を実現している状態です。例えば、在庫情報システムにより在庫量・発注量が管理されたり、顧客管理システムにより効率的な営業活動が促進されたりしています。

段階4:DX(デジタルトランスフォーメーション)

 デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化、データ活用による販路拡大や新商品開発などが実施されている状態です。例えば、蓄積されたデータを活用した販路拡大や新商品の開発による付加価値の向上が実現しています。

――この4段階で見た場合、中小企業の実態はどのようになっていますか。

 中堅・中小企業を対象にしたアンケート調査をまとめた『2024年版 中小企業白書』では、段階1が30.8%、段階2が35.4%、段階3が26.9%、段階4はわずか6.9%となっています。

 日本全体ではコロナ禍を契機にデジタル化が進んだ面はありますが、中小企業の7割弱は今なお、業務の大半をアナログもしくは部分的デジタル化の域にとどめているというのが実態です。