がんばりすぎていた写真家が「仕事に自分のすべてを注ぎ込まないほうがいい」と心底思うワケ写真:幡野広志

写真家だけど、カメラより命のほうが大切

 財布を落とした。渋谷のホテルで落としたようだ。財布を落としたのは2年ぶり4回目ぐらいだ。ぼくはよく財布を落とすけど、カメラもよくなくす。財布もカメラも毎回無事に手元に戻ってくるので危機感なくまた落としてしまう。

「写真家にとってカメラは命よりも大切」なんて言ったりするけど、家電量販店で値引きされてポイントまで加算されて売られるものが命よりも大切なわけがないよね。どんだけ写真家の命は安いんだよ。

 この言葉はきっとカメラ1台で家が1軒建つような、命の価値がいまよりも低くて、カメラの価値がいまよりも高い時代の名残だ。命のほうが圧倒的に大事だよ。

 人には命とおなじぐらいか、もしかしたら命よりも大切なものがある。命をかける価値のある存在がなにかは人それぞれだけど、自分の人生でなにを大切にして生きているか定期的に考えたい。

 ぼくにとって人生で大切なことは、自由であることだ。好きなことをする自由、旅にいける自由、好きなものを食べる自由、好きな人と会う自由だ。自由がないなら生きてる価値はガクンと下がる。

 意外かもしれないけど写真家はカメラから生まれるわけじゃない。ぼくはがん患者ではあるけど病人として生まれたわけでも病人として人生を生きているわけでもない。一児の父ではあるけど子どもに人生を捧げているわけでもない。

 人生をバランスよく生きたい。人生の時々でハマるものは人間関係や遺伝や環境で変化する。和食のようにバランスよくバラけているものだ。

 いろんなことしたほうがいいよ、マジで。