東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

【京大名誉教授が教える】“南海トラフ巨大地震”から生き残るために必要な「4つの備蓄」とは?画像はイメージです Photo: Adobe Stock

あなたが生き残るために

 これから起こると予想されている自然災害について、どうすればよいのかという話に移りましょう。

 まず国の取り組みですが、僕は高く評価しています。たとえば内閣府と文部科学省と気象庁が発表する南海トラフ巨大地震の情報はとても役立ちます。

 オールジャパンのすぐれた地球科学者が集まっているのだから、科学的にも間違いはなく、とにかくよくできています。僕がとやかく言う筋合いはありません。

 ただ、印象としては「遠くで役に立つ」という感じです。間接的とでも言いましょうか。

 まず、国が出す情報だから、誰かが困るような尖った情報は出せない。だから個々で調整をしながら考えて決めると、結局どうしていいかわからないことがある。

 それと、あまりに信じすぎるのもよくなくて、すべてを鵜呑みにすると「想定外」のことが起きたときの対応が遅れてしまうこともあります。

現実を見つめること

 自然界では予測と違うことが起きるもので、よくできているストーリーが一分後もそうであるとは限らないでしょう。

 僕たち人間はすぐれたものが瓦解するところは見たくないから、そういうことにフタをしてしまいがちですが、現実はそうとは限らない。だから頭の片隅に国が言っていないことが起きるということも意識しておいたほうがいいんです。

 とにかく具体的な防災計画についても国は一生懸命やっています。

国に任せすぎてはいけない

 ライフラインの整備など、個人ではどうすることもできなくて、国や自治体にがんばってほしいこともたくさんあります。それでもやはり最終的には「個人」なんですね。

 だって南海トラフ巨大地震では日本国民1億2500万人のうちの6800万人が被災すると予測されているんですよ。

 国に任せきるには多すぎる数字です。国に頼れないところはいくらでもあるので、国は国、個人は個人という発想が大切です。

 個人では水や食料、医薬品、簡易トイレなどの備蓄が大事ですし、自宅の耐震補強をしておくこともできます。自分が助かる、家族が助かる、親戚が助かる。みんながそう思ったら、結局、それで6800万人が助かるんです。

 誰かに助けてもらおうと思うと、助けようとした人も一緒に倒れてしまうこともあります。

 個人ではどうしようもないことが多いのも事実なんですが、どうにかできることはあるわけで、それを積み重ねるしかないんです。

 これは不確定な時代、想定外の時代を生き残るコツだと思うんです。もちろん国や自治体もしっかりと対策を講じなければいけないけれど、それと並行して、個人でもどうにかすると頭を切り替えることも大切ということです。

参考資料:【京大名誉教授が教える】首都直下地震で「最も被害が大きいと予想されるエリア」とは?

(本原稿は、鎌田浩毅著大人のための地学の教室を抜粋、編集したものです)

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。