レアアースを戦略的資源に
位置づけた鄧小平
第一次トランプ政権では、中国がアメリカの知的財産を侵害し、アメリカ企業に不当な競争と技術移転・技術流出を強いてきたとして、規制と制裁関税が発動された。
2018年には、340億ドル分の中国製品に25%の追加関税が課され、中国経済に大きな打撃を与えた。
とくに、中国ハイテク企業の雄であるファーウェイに対する制裁は苛烈(かれつ)を極め、半導体やソフトウェアの輸出を制限することで、同社のグローバル戦略を阻止し、それまで順調に進めてきた5Gの国際インフラ展開から排除することに成功した。
一方、バイデン政権もトランプ政権の対中政策をほぼそのまま引き継いでいる。
とくに注目すべきは、2022年のCHIPS法(CHIPS and Science Act)である。これは、国内の半導体製造・研究に527億ドルの助成金を支出し、AI、量子技術、次世代通信など最先端技術に政府が広く投資する仕組みである。
この政策は、中国の技術的優位をあらゆる分野で封じ込め、アメリカが上回ることを目的としている。支援を受ける企業はその見返りとして、対中投資や技術移転を厳しく制限される。
その一方で、中国はレアアースを外交カードにすべく、着々と準備を進めてきた。
中国がレアアースを戦略的資源と位置づけたのは、1992年に鄧小平氏が南方視察の際に「中東には石油があるが、中国にはレアアースがある」と語ったときからであり、実に長期的な蓄積がある。
鄧小平氏は、レアアースが将来、地政学的に大きな意味を持つと見ており、その思想は歴代政権に継承された。その最初の実例が、2010年に起こった尖閣諸島事件後の対日レアアース禁輸である(※詳細は以下の記事を参照:『まさか日本が鍵なんて…中国「レアアース禁輸」で窮地のアメリカが欲しがる「技術」とは?』)。
再選を果たしたトランプ大統領は、対中関税によって圧力を強めたが、中国はレアアース禁輸という切り札でこれに対抗し、結果としてアメリカは妥協を余儀なくされた。
つまり、アメリカによる半導体規制に対し、中国はレアアース規制で真っ向から応戦し、しかも事前に準備を整えてから実行したのである。
この対決において有利なのは中国だろう。
半導体は時間をかければ技術力を高められるが、重希土類については代替がききにくい。持久戦になれば状況を改善できるのは中国のほうであり、アメリカが重希土類を止められれば、その分だけ交渉条件を改善することは難しくなる。