「購入」が現実的でないとしても、戦後の安全保障政策で密接に連携してきたアメリカは、今後も投資や提携を通じてグリーンランドへの影響力を高めようとするのは確実である。
レアアース、とくに重希土類の中国依存からの脱却は、米中デカップリングを実現するうえで最も重要な課題の一つである。これはアメリカに限らず、日本にとっても同様であり、半導体やAIといった基幹産業を支えるために、重希土類は不可欠な戦略資源である。
中国に偏在している以上、重希土類はアメリカの軍事・経済両面におけるアキレス腱(けん)であり、グリーンランドはこの弱点を補う重要な拠点として注目すべきである。
資源の重要性に加えて、地政学上も極めて重要なグリーンランドは、米中新冷戦における最重要事項の一つとなりつつある。
グリーンランド争奪戦で
日本が果たすべき役割
グリーンランド権益をめぐっては、環境保護や住民感情といった課題が今後ますます重視されるはずである。そして、最終的には「どちらの国がより信頼できるか」という、極めて人間的な問題が決定的な要素になり得る。
そこに、日本が果たすべき大きな役割がある。
そもそも重希土類は日本にとっても極めて重要な資源であり、その安定供給の観点から、グリーンランドに対する外交的関与が今後ますます必要になる。
広大な面積を持つグリーンランドだが、人口はわずか5万6000人ほどにすぎず、多くはイヌイット系住民で構成されている。日本に対する関心は高くないものの、水産物貿易や気候・海洋研究などの分野で協力関係にあり、国として信頼されていると考えられる。
それに比べて、近年、開発の提案が相次いでいる中国に対しては、警戒感が高まっている様子も見られる。グリーンランドの外交を担うデンマークは、日本文化への関心が高く、対日感情も良好であるとされる。
グリーンランドにおけるレアアース開発についても、日米が協力して進めることは、投資や採掘・加工技術の向上のみならず、住民との合意形成においてもプラスに働くはずである。
アメリカによる「グリーンランド購入」は現実的ではないにせよ、「グリーンランドにおけるレアアース採掘権の取得」については、日米が連携して進めていくべきではないだろうか。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)