グリーンランドの住民は産業化に積極的とは言えず、むしろ自然と調和した生活を重視する傾向がある。過去には中国企業による鉱山開発計画が住民投票で否決された事例もある。

 2025年1月にデンマークの調査会社が18歳以上のグリーンランド住民497人を対象に実施したアンケートでは、85%が「アメリカの一部になることを望まない」と回答している。賛成はわずか6%にすぎない。

 なお、別の416人を対象とした調査では、57.3%がアメリカ加入に賛成、37.4%が反対という結果もあるが、この調査にはバイアスがかかっていた可能性が指摘されている。

 このような現状を見ると、アメリカによる「グリーンランド購入」は現実的ではないと見るべきであろう。

 また、仮にアメリカがレアアースの開発を委ねられたとしても、鉱山を開発し採掘に至るまでにはかなりの時間がかかる。

 鉱床調査・探鉱に2~3年、環境評価に2~3年を要する。さらに、開発に慎重な住民との合意形成には5年以上かかるとされている。

 これに加え、鉱石を精錬し、輸送する体制を整備するにも5年程度が必要と見られている。

 これらの工程の一部は並行して進めることが可能だが、単純な足し算ではなくとも、全体として少なくとも10年程度の期間が必要と考えられる。

資源面だけではない
グリーンランドの重要性

 アメリカにとってグリーンランドは、資源面だけでなく、安全保障の観点からも極めて重要な場所である。

 アメリカ空軍はすでにグリーンランド北西部のチューレ空軍基地を拠点とし、北極圏防衛において監視・ミサイル防衛システムを展開している。

 温暖化によって北極航路の現実味が増すなか、ロシアや中国と北極圏の権益をめぐる競争が激化している。北極点を中心とした北極圏の地図を見れば明らかなように、この地域における影響力を強めるうえで、グリーンランドはきわめて重要な拠点となっている。

 トランプ大統領がグリーンランド購入を言い出したのは、単なる思いつきではなく、資源・環境・軍事を結びつけた地政学的戦略の一環と見るべきであろう。