一日中忙しく動いているのに、なぜか何も片付いていない――そんな日々に疲れている人も少なくないだろう。一方で、同じ1日のうちに、山のような仕事をこなしている人もいる。いったい、この違いはどこから生じているのだろうか。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術──限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の著者・デボラ・ザック氏は、その秘訣を「マルチタスクをやめ、シングルタスクにすること」と語る。本記事では、シングルタスクを身につけるためにはどうすれば良いのか、本書の内容をもとに紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

一点集中術Photo: Adobe Stock

いつも定時で帰れる「生産的な人」の秘密
━━“あえて休む”人ほど能率がアップする?

 忙しくなると、私たちは会議の合間に別件のメールを打ったり、研修の隙を見て他のプロジェクトの電話連絡を入れたりと、ついマルチタスクで乗り越えようとしがちだ。

 しかし、あれもこれもとバタバタしている割に、いまいち仕事が片付かず、夜になっても大量に残っている仕事に呆然としたことはないだろうか。

 一方で、社内にはたくさん仕事を抱えている割に、テキパキとこなして定時に颯爽と帰っていく人もいる。

 彼らはいったい、どのような働き方をしているのだろうか。

 ザック氏は本書で、「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌が特集記事を組んだ、きわめて能率がいい社員の働き方を紹介している。

こうした社員は、出社後すぐに仕事に取りかかるうえ、1日のあいだに何度か休憩時間を設けていた。日々のスケジュールにリフレッシュする時間を組み込むことで、結局は能率を上げているのだ。
そのうえ、かれらはランチタイムにもシングルタスクに励んでいた――昼食を楽しんでいるあいだは、いっさい仕事をしないのだ。(P.119)

 定期的に休憩を取り、自分を「オフ」にする時間があるからこそ、「オン」のときに集中できるのだという。

 筆者は会社員時代、締め切りのある仕事が終わらなくて、昼食をデスクで取りながら働いた経験が何度もある。それに比べると、なんとこの社員の働き方はメリハリがあるのだろう。

 さらに、「シングルタスクに励んでいる」こともポイントだ。

 ザック氏によると、脳は一度に2つ以上のことを行うことができないため、「一度に複数の作業をしようとする」こと自体が「気が散っている」ことを意味するのだそうだ。

 複数のことを同時に進めることで、脳ではタスク・スイッチング(タスクの切り替え)が起こって集中できず、能率が落ちるという。

 そのため「成果を上げたいのであれば、脇目もふらず、目の前の作業に集中するしかない。マルチタスクをやめ、シングルタスクを身につけるべきだ」とザック氏は提唱する。

シングルタスクに切り替えるための方法4選

 とはいえ、打ち合わせや部下との面談、メールの返信など実に様々な業務が毎日山積みだ。いったいどうすればシングルタスクに切り替えられるのか。ザック氏おすすめの方法を一部紹介する。

①「類似タスク」をまとめて片付ける
だいたい平均的と思われる3日間を選んで、実際どんな時間の使い方をしたかをメモに取る。それをもとに、何度かおこなっているタスクの中で、似たようなタスクをまとめる。たとえば「受信したメールを読み、必要があれば返信する」「電話をかける」「取材や打ち合わせの予定を組む」など。こうした用事を類似タスクごとにグループ分けし、1日の同じ時間帯にまとめて片付ける予定を組む。そうすることで、似たタイプのタスクに1日に何度も時間を奪われて思考の流れを遮断されることを防ぐことができる。まずは、メールやメッセージの送信にあてる時間を「1日に20分間を3回」と決めることから始めよう。

②「1×10×1」システムを使う
仮に、数日の間オフィスを留守にしていたとする。久しぶりに出社したら書類やメールが山になっていた場合の対応法が、この「1×10×1」システムだ。これも、類似タスクをまとめて片付ける手法の一種である。まず、最初は「1分前後で片付けられるタスク」に今すぐ着手する。すぐに対応できる「メールへの返信」「企画の承認」「留守番電話への対応」などがこれにあたる。次に、「10分以内に片付けられるタスク」を特定する。これらは1日のうちのできるだけ早い時間に取り組むのがいい。最後は、「片付けるのに1時間か、それ以上かかるタスク」だ。これらは、今後2、3日のスケジュールに取り組む予定を組み込もう。ポイントは、朝、雑事が降りかかってこないうちに分類してしまうことだ。

③1日2回、「空白タイム」をつくる
平日のスケジュールを作成する際に、必ず毎日2回、アポや打ち合わせを入れない30分の「空白タイム」を設け、その時間に類似タスクをまとめておこなったり、予期せぬできごとに対処したりしよう。この時間をあらかじめスケジュールに組み込んで、会議などを入れないようにしておけば、その時間に作業に取り組むことができる。こういった余裕がなければ、とんでもない非常事態が起きた時に対処する時間が取れないので、しっかり確保しておきたい。

④時間を区切って「籠城」する
いまの職場環境ではどうしても集中力が高められない場合は、時間を区切ってオフィスの会議室などを利用させてもらうのがおすすめだ。ポイントは、周囲に「仕上げてしまいたい仕事があるので、一時的に外部との接触を絶っています」と知らせておくこと。そうすることで、周りの人たちは急ぎの要件以外の連絡を控えてくれるはずだ。その代わりに、何時から対応できるかは先に明確にしておくことも重要だ。

シングルタスクを実行できたら、自分にご褒美を

 仕事の能率を上げるためには、あれこれ同時に手を出すのではなく、「今はこれに集中する!」と決めて、その一つをやり遂げることが重要だ。

 ザック氏が提案するシングルタスクに切り替えるための方法は、誰にでも適応できる。

「フリーランサーだろうと、学生だろうと、アーティストであろうと、主夫や主婦であろうと、このやり方を活用できるはずだ」とザック氏は語る。

 さらに、このシングルタスクに切り替える行動を目標とし、その行動を取れたかどうか、毎日記録に残すことをザック氏は推奨している。

1週間に4日間目標を達成できれば、成功だ。
15日間、記録をつけたら、自分にご褒美をあげよう。
「いまここ」に集中する能力を伸ばせたということ自体も見返りだが、そのほかにも、かたちとして達成感を味わえる何かをご褒美としてぜひ自分にあげてほしい。(P.146)

 現代は、仕事だけでなく、SNSやメール、電話など、様々な情報が私たちの集中力を途切れさせてくる時代だ。

 その中で、一つのことに集中して取り組むのは非常に難易度が高い。

“いまここ”に集中する力は、習慣で育つ。まずは自分を褒めながら、シングルタスクの第一歩を踏み出そう。