天才型ベテラン社員は去り
「お利口」ばかりの職場に

 しかし、興味深いことがありました。

 アーティスティックというか、非凡というか、我が道を行く系の職人気質のベテラン社員を思い浮かべていただきたいのですが、その方々に「エンゲージメントサーベイ」や「360度評価」などをすると、部下たちからの「悪評」が露呈されることもあると言います。

 自分がどのくらいやる気を持って業務に取り組めているか?職場で日常的にどういうことに困っているか?などが調査項目に入っているわけですが、その回答傾向次第で要するに、上司の「指示が不明瞭」「個人プレーで全然部下のことを考えていない」などのリーダーのマネジメントスタイルに関する声(苦情とも言うべきか)が明るみに出るのです。

 すると何が起きるか?

 この友人が勤めていた企業のような大きなところは、「ガバナンス」の効いた会社だからこそ、ときにその天才職人系ベテラン社員(D部長と呼ぶ)が降格したり、マネジメントラインを外されて専門職に異動になるなどの――「適切な対応」がとられるというのです。

 調査して、「よろしくない」という「客観的」な結果が出てしまったのですから、ある意味当然とも言えるかもしれません。

 しかしその「適切な対応」の結果として、その組織から天才型D部長は追われ、「お利口」なマネジャーが充当されたとします。すると組織の業績がよくなるかというと……パッとしないことが少なくない。

 先の友人に言わせると、「もう二度とあの人がいた頃のものは生まれないんだろうなぁってみんな思ってるんだよね」と話すのです。

 D部長の今はというと、手腕は知られたところでありながら、その後転職することもなく、50代半ばで早くも隠居状態だと風の便りに聞くそう。

 勤続30年余り、名だたる功績も残しながら、最終的には匿名の部下投票のようなもので、その座を追われたD部長。自分から口にするかどうかは別として、内心は「傷ついた」ところはあるでしょう。