中高年へのリスキリング通告は「リストラの道具」ってホント?言われた社員はどうすべきなのか写真はイメージです Photo:PIXTA

昨今は少子高齢化が進み、労働力人口の減少が懸念されています。今後は再雇用制度などを充実させ、定年退職後の人材を積極活用する企業がさらに増えるでしょう。ただ、近頃は生成AIやロボットの進化が著しく、「人間の仕事を奪う」懸念もあります。経験豊富な中高年層といえども、再雇用後に活躍し続けるには「リスキリング(スキルの再習得)」などの自己研鑽が不可欠になります。そのための具体的手法や考え方を、後藤宗明氏の新刊『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』から一部抜粋してお届けします。

中高年の在り方に対する
「ダブルスタンダード」とは?

 今、多くの組織や企業の人事担当者とお話をしていて思うことがあります。それは中高年の在り方に対するダブルスタンダードが存在しているということです。

(1)組織視点では成立するダブルスタンダードな方針

 まず組織が発信しているメッセージは、「もうそろそろあなたのこの組織における寿命は終わりですよ」というものです。

 40代後半から始まる通称「たそがれ研修」に始まり、早期退職、役職定年、定年、再雇用という一連の流れが用意されています。

 一方で、多くの人事部の方がおっしゃることは、「うちの会社のベテラン世代は新しいことを全く学ばないんですよ。どうしたらいいでしょうか」というものです。つまり、組織で働いている以上、新しいことを学びなさい、ということです。

 組織の人事担当者視点で考えると、この2つのメッセージは全く別物であり、共存しうるダブルスタンダードなわけです。組織にいる以上、退職に向けて最終局面にいるものの、最後まで頑張りなさい、というものです。

 しかし、この2つの基準を働く私たち、個人の視点で考えてみるとどうでしょうか。

「長く働いてくれてありがとう、お疲れ様、もう引退に向けて準備が必要ですよ」というメッセージと、「頑張って新しいことを学んでリスキリングしないとダメですよ」というメッセージは、矛盾しているように受け止められるのではないでしょうか。

(2)個人視点ではどうすべきか迷うダブルバインドとは

 ここで考えたいのは、この矛盾する2つのメッセージが、心理学でいうところの「ダブルバインド」になっていないか、ということです。

 ダブルバインドとは、英国の人類学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した理論で、2つ以上の相反するメッセージを受け取ることで起きるコミュニケーションにおけるジレンマのことを指します。例えば、上司から「いつでも質問して」と言われたにもかかわらず、実際に質問に行ったところ「それくらい自分の頭で考えろ」と言われてしまい、今後はどうすべきなのか迷ってしまうような状態が、仕事上で起きるダブルバインドな状態です。