たばこや飲酒などの“環境”も
がんに影響を与える

 がんを引き起こす原因には、これまで述べてきた複製エラー以外に環境的な要因もあります。環境的な要因とは、遺伝子の変異を引き起こすような物質や環境に私たちの体がさらされることを意味します。

 たとえば、たばこには、約70種類もの発がん性物質が含まれています。これらの発がん性物質は、肺の細胞の遺伝子の変異を引き起こすだけでなく、血液中にとり込まれた後、全身の臓器へと運ばれ、さまざまな臓器のDNAに損傷を与えます。

 そのため、たばこは肺がんだけでなく、肝臓や膵臓(すいぞう)がんなどさまざまながんを促すことがわかっています(注2)。そして食生活や飲酒、細菌やウイルスへの感染、肥満などといった環境的な要因もまたがんを引き起こします。

 近年行われた研究から、肺がんの1つである肺腺がんでは、約65パーセントがこの環境的な要因によって引き起こされた遺伝子の変異によるもので、残り35パーセントが複製エラーだと推測されています(注3)。

 この環境的な要因によって起こる遺伝子の変異は、たばこをやめる、肥満にならないようにする、ウイルスに感染しないようにする、といった私たちの生活習慣や環境を変えることである程度予防できると考えられます。

 一方、複製エラーについては、予防することは難しいので、早期発見・早期治療が大切です。

 つまり、たばこは吸わず、お酒は適量にして、適度に運動をして、太りすぎず痩せすぎず、人間ドックやがん検診を受けて、何か異常があったらすぐに精密検査を受けるという生活がよいと思われます。

 なお、国立がん研究センターが運営する公式サイトには、科学的根拠に基づくがん予防についてわかりやすく記載されています(注4)。

がんが起こる
「遺伝的な要因」とは?

 これまでがんの原因として複製エラーと環境的な要因について説明してきました。実はこれ以外にも、遺伝的な要因によってがんは起こります。では、この遺伝的な要因とは何なのでしょうか?

 私たちのゲノムには、父親由来のものと母親由来のものの2つがあります。