凍結している卵子が、どれぐらい受精卵になり、妊娠につながるかは、蓋を開けてみないと分からない。41歳になった今の卵子より、凍結卵子の方が若いことは間違いないが、凍結している18個の卵子全てが妊娠につながらない可能性もある。
「そう考えたら、何が何でも最初から、凍結卵子にこだわらなくても良いのかなと。彼の気持ちのためにも、いきなり凍結卵子から使うのではなくて、少し自然妊娠を試すステップを踏んでから、段階的に進めるのが良いかなと思っています」
本当はすぐにでも凍結卵子を使いたいが、彼の気持ちも大切にしたい。一足飛びに進まないのは、彼の気持ちを大切に思うがゆえの判断だ。
不妊治療において
男性側は葛藤を打ち明けにくい
卵子凍結をした時点では、パートナーがいなかった。むしろパートナーがいないから卵子凍結したとも言える。凍結した卵子を使うのは、「この人と子どもを持ちたい」と思えるパートナーが現れ、互いに合意に至った時――。だがパートナーと出会っても、その“合意”を得るのが難しい場合もある。
「凍結卵子を使っての妊娠・出産は、パートナーにとっても、心の準備と整理に、ある程度、時間が必要かもしれません」
パートナーと出会い、子どもを持とうとする合意が生まれた段階で、新たに生じた葛藤。これもまた、卵子凍結が持つ1つの側面と言えそうだ。
生殖医療の主体は、母体に命を宿す女性であるのは揺るぎない事実だ。だがその陰で、パートナーである男性の心が置き去りにされがちな実態がある。実際、不妊治療の取材の中でも、男性が人知れず抱える葛藤が、たびたび議論になることがあった。「こういうテーマは特に、女性より男性の方が、葛藤や悩みを内に秘めてしまいがち」という声も、複数の医師から聞かれた言葉である。
葛藤を抱えていても、治療の主体は妻であるため、妻には本音が話しづらい。かといって、友人や同僚に気軽に話せる話題でもない。「男としての機能が弱いと見られたくない」といったプライドから、不妊治療への抵抗感を持つ男性もいる。