自分と出会う前の卵子に
“違和感”を覚える男性

 誰にも話せないプレッシャーやストレスが積み重なり、結果的に追い詰められてしまう男性の例も、少なからず見られるという。

「凍結している卵子を使って、あなたの精子と受精させて妊娠したい」。ある時、パートナーの女性からその趣旨を告げられた男性は、何を思うのだろう。実際、属性の異なる30~40代の男性に意見を聞いたところ、「パートナーが選択したことなら尊重したい」という声もあれば、「頑張って妊娠のチャンスを残しておいてくれてありがとう、と思う」という声もあった。

 一方、「凍結期間が長いほど、本当にそれを使って大丈夫なのか、産まれてくる子どもに万が一何かあったら、という気持ちが拭えない」と凍結保存による子どもへの影響を心配する声も聞かれた。同様の理由から、凍結卵子を使うなら、妊娠時期に胎児に異常がないかどうかを調べる「出生前診断」を「絶対にやってほしいと思う」とする意見もあった。

書影『「-196℃の願い」卵子凍結を選んだ女性たち』(松岡かすみ、朝日新聞出版)『「-196℃の願い」卵子凍結を選んだ女性たち』(松岡かすみ、朝日新聞出版)

 さらに、これは少し突飛な意見かもしれないが、「“自分と出会う前の卵子を使って受精させる”ことに対し、少なからず違和感がある」という声もあった。

 これらは感覚や価値観の問題で、どれが正解でどれが間違っているという話ではない。理屈では語れない部分の問題だ。だが自分とパートナー、2人の子どもとして育てることを前提とするなら、双方が納得の上で進めることが必要になるはずだ。

 小川さんが「彼の気持ちを置いてけぼりにして妊娠したとして、果たして幸せと言えるのかな」と語った一言は、双方の意見が合致しなかった場合に生じる、重い葛藤を表している。パートナーと気持ちをすり合わせる過程も、凍結卵子を使って出産に至るまでの大切なプロセスの1つと言えそうだ。