いきなりスーパーマンとバットマンとの対比から始まるわけです。その上で、彼らとの違いを明示します。
「でも、まるでちがうところは、スーパーマンみたいにかっこよくなかったのです。全身こげ茶色で、それにひどくふとっていました。顔はまるくて、目はちいさく、はなはだんごばなで、ふくれたほっぺたはピカピカ光っていました。たしかにマントをひろげて鳥のようにとんではいましたが、なんだかおもそうでヨタヨタしていました。」
悪を叩きのめすよりも
飢えた人を助けたい
この中年おじさんのアンパンマンの使命はなんだったのでしょう。
はらぺこの子どもたちに焼きたてのアンパンをあげること、でした。
「おなかをすかして泣いている ひもじい子どもの友だちだ 正義の味方アンパンマン」
アンパンマンは中年のおじさんの時代から現代の3頭身アニメキャラクターに進化するまで一貫して「お腹の減った人にアンパンをあげる」のが使命だったのです。
やなせたかしは、この作品を通じて「正義」について問いたかった。その正義とは、「飢えた人を助けること」でした。このテーマを際立たせるため、かっこいい衣装で空を飛び回り、わかりやすい悪役を叩きのめすスーパーマンの意匠を借りながら、徹底的にそのアンチテーゼとしてのキャラクターを見せる。それがアンパンを配る中年のお腹の出たおじさんアンパンマンだったわけです。
そして中年アンパンマンのキャラクターは、装いを変えて数年後に登場します。
皆さんの知っている幼児向けの「アンパンマン」になるのです。
「もう漫画家としてはやっていけない」
その見切りが『あんぱんまん』を生んだ
1960年代半ばから、やなせたかしは、自分の主戦場を大人向け漫画から徐々に絵本へと比重を移していきました。最初の絵本は、1965年に岩崎書店から出た『飛ぶワニ』です。当時をやなせたかしは次のように語っています。
「この頃、漫画界では劇画全盛の時代になっていて、仕事はみるみる減ってしまいました(編集部注/やなせたかしはおもに大人向けの1コマ漫画や4コマ漫画を志向していたため、漫画界のブームに乗り遅れた)。ぼくは、これにはもうついていけないと思って、仕事の中心を絵本にすることにしました」(『やなせ・たかしの世界』サンリオ 1996)