1973年、やなせたかしはサンリオで雑誌『詩とメルヘン』を創刊して編集長となりました。彼にとってターニングポイントの瞬間でした。大人向け漫画から絵本へ、詩とメルヘンの世界へとはっきり仕事の軸足を移したのです。
過去の新聞検索でやなせたかしの記事を検索すると、1960年代の肩書きは「漫画家」ですが、1970年代から1980年代終わりまでは「絵本作家」となっています。再び「漫画家」となるのは、テレビアニメ「それいけ!アンパンマン」が大ヒットした1988年以降です。
同じ1973年、フレーベル館の幼稚園・保育園向けの月刊絵本「キンダーおはなしえほん」10月号にまんまる顔のキャラクターが登場しました。「あんぱんまん」です。ついにアンパンマンがはじめて絵本となったのです。
「なんでもいいから1冊書いて」
編集者の自由放任すぎる発注
絵本『あんぱんまん』誕生のきっかけは、1969年にフレーベル館から出した『やさしいライオン』のヒットでした。『やさしいライオン』も最初は大人向けのメルヘンとして雑誌『PHP』に連載したものでした。が、内容をほとんど変えずに絵本にしたところ、アニメ映画版が評判になったこともあり、多くの読者をつかんだのでした。
「やなせ先生、また1冊、絵本をお願いします」
フレーベル館の編集者から声をかけられ、「なんでもいいから1冊絵本を書いてくださいということになった」(『アンパンマンVSアンパンマン』フレーベル館 2000)。
そこでやなせたかしが選んだ題材が、4年前の1969年に大人向け「やなせメルヘン」の一編として書いた、中年のカッコ悪いヒーロー、「アンパンマン」だったのです。