持ち家に対するニーズは大きく変化
その背景にあるのは?
こうなる過程では住民意見が重要な鍵を握った。世田谷区も高さ制限に舵を切るために、区民アンケートを取り、公表している。田園風景を支持する高齢化している現在の居住者の意見を聞いてしまう。既得権益を持つ高齢者の意見は残念ながら未来志向から遠のく傾向になりがちだ。政治や行政は未来志向を失うと、変化を好まず老け込んでしまい、時代遅れになる。
このように、住民には将来ビジョンが無い。だからこそ、政治にはリーダーが必要なのだ。
都区部のマンションの平均総戸数は66戸で、江東区はその2倍の132戸で最も多く、世田谷区は49戸で最下位の48戸に肉薄している。江東区は湾岸エリアがあり、敷地の大きな物件が多い。タワーマンションも建ちやすいので、総戸数も多くなりやすい。
これは、中央区復活のストーリーと同じになる。中央区の人口は1997年から2019年にかけて倍増している。1993年から容積緩和をして、単純にこれまでより高い建物が建てられるようになったのだ。この容積緩和によってデベロッパー(不動産開発業者)はこぞって収益を生みやすい中央区で開発競争が始まる。マンションがたくさん建つとオフィスへの職住近接を望むニーズを吸収して人口は増え始めたわけだ。
最後にまとめておこう。昔と違って、持ち家に対するニーズは大きく変わってきている。その最大の要因は、世帯人員である。4人世帯と2人世帯は家に対するニーズは違う。東京都の1世帯人員は既に2人を切っており、単身世帯が中心になっている。マンション居住者の平均世帯人員も2.5人以下となっている。
そこで求められるのは、「職場に近い立地」「駅に近い立地」であり、それを実現するのは戸建てではなくマンションになる。戸建ての資産性がないがゆえに、これと競合する低層のマンションは資産価値が低く、タワーは別格の資産性になる。総戸数も多い方が共用部は充実し、都市生活者には使い勝手が良かった。
これらの立地と物件属性からマンションの資産性が決まる。このため、江東区は既に世田谷区を超えただけでなく、今後大きく引き離すことになるであろう。隔世の感があるが、これが現実なのである。
(スタイルアクト代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)