指標がレポートのためのもの
ではなく「コンパス」である理由
NSMの説明に入る前に、企業でよく使われるさまざまな指標について、一通り振り返ってみましょう。
多くの企業では、KGI(Key Goal Indicator:最終目標指標)として売上や利益を設定し、それを達成するためにKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を用意しています。しかし、PL的な最終目標だけを追うあまり、本来目指していた価値を見失ってしまうケースは少なくありません。
私の趣味である登山を例に考えてみましょう。登山の最終目標(KGI)は「山頂への到達」です。しかし、山に登る理由は人それぞれです。美しい景色を撮影したい人、頂上でのご飯を楽しみにする人、静かな自然に身を置くことそのものに価値を感じる人など、登山という活動ひとつとっても「価値」の定義は異なるのです。
登山の途中経過や体調を測るには、歩数、高度、消費カロリーなどの数値を使います。これは、プロダクトにおけるKPIにあたります。KPIは、登山の価値や目的が異なっても、進捗や状態を測る共通の物差しとして使えます。
一方、NSMは、登山の目的に即した「自分たちにとってのコンパス」のような存在。目的が写真撮影なら「撮影枚数」、登山飯が目的なら「調理・食事にかけられる滞在時間」など、価値の定義に応じてその内容は変わります。NSMは、登頂というKGIの達成だけでは測れない、その人が「本当に得たかった価値」を見極めることができる「成功の兆し」です。
プロダクトにおいても、NSMは目的によって異なります。あるサービスでは「週3回以上の利用」がNSMとなり、別のサービスでは「月間アクティブ取引件数」や「ユーザーの継続的な特定のアクション(レポート作成、定期予約完了など)」が、サービスの価値を象徴するNSMとして機能するかもしれません。
つまり、「売上=成功」という短絡的な構図ではなく、「自分たちはどんな価値を届けたいのか」「それはどう見えるのか」を問うことが、NSM定義の第一歩です。
KPIについても誤解が多く見られます。多くの企業でKPIは、単に報告用の数字として扱われ、週次や月次の会議で「上がった」「下がった」と一喜一憂するだけで終わってしまいます。