そして5カ月後、研究チームは実験の参加者を再び集め、好きな人とその後どうなったかを調査しました。

 平均すると、好きな人とのポジティブな交流を想像した学生は、ネガティブな交流を想像した学生に比べ、好きな人に実際にアタックしたり、何らかの形で関係を発展させようとしたりすることが少ないという結果になったのです。

 なぜこんな結果になったのか。最初の研究で、試験のいい結果を夢想した人たちと同じように、好きな人とのポジティブな交流を夢想した人たちも、夢想している間はいい気分だったかもしれませんが、ポジティブシンキングが現実になることはなかったのです。

 ただいい結果を願うだけでは、自己満足に陥るだけです。もしかしたら、ポジティブシンキングによってすでに願いがかなったような気分になり、わざわざ行動を起こす必要はないと思ってしまうのかもしれません。

引き寄せの法則は
有益どころか逆効果?

 研究チームの1人のガブリエーレ・エッティンゲンが、ポジティブシンキングについてさらに研究を行いました。今度は、キャリアについてのポジティブシンキングは、実際にキャリアの発展と相関するのかという研究です。

 まず大学4年生の学生を集め、卒業後に理想の仕事に就く自分を想像することがあるか、あるならどれくらいの頻度で想像するか尋ねます。

 そして3年後に同じ学生の追跡調査を行ったところ、キャリアの成功をより高い頻度で夢想する人ほど、実際に求人に応募する数も、仕事のオファーを受ける数も少なく、収入も低いということがわかりました。

 これではまるで、ポジティブな夢想はポジティブな結果を引き寄せるのではなく、むしろポジティブな結果の代わりになっているかのようです。

 以上の3つの研究結果を統合すると、実際のところ、引き寄せの法則はむしろ有害であり、願望を現実化する助けにはなっていないようです。

 その理由を考えてみましょう。ポジティブなことを考えるとたしかにいい気分にはなれますが、いい気分は受け身的な態度につながります。

 これはたとえるなら、薬で痛みを消すだけで、痛みの根本的な原因は放置しておくようなものです。